▼投稿原稿

福島遥歌集・きんいろ

福島遥歌集・きんいろ





【解題】
福島遥の短歌は希望に向けてのものであれ悲哀に向けてのものであれ
「感情の質」が抜群にうつくしい。
少女性の美質がおのずとロマンチックに流露し
接した者を華やかなあこがれでつつむ。これは天与の稟質というべきだろう。
むろんそれは着想によるところ大だが、同時に音韻にかかわる感受性も見逃せない。
たとえば、以下の冒頭歌などは颯爽としていつつ、
独特の語調により感受性の「現在性」も獲得していて唖然とする。鮮やかだ。
《比較的ひまわりであるあの人を夏の歌集の冒頭に挿す》
あるいは以下の心憎い「ひらがなづかい」。
《もういないということがいつまでもとけないほどにきみはやさしい》
さみしさにひかりがまざる、ということなのだが、
むろん濃艶な作歌が片方で混在するから、一首一首にメリハリがついているのだった。
その意味で以下の二首などは恋唄上の「絶唱」とも呼べるものだろう。
《一篇の詩歌になっていくからだ君がわたしにすっとさしこむ》
《あいまいな箱の中身をあっさりと売り渡したあと一人で泣いた》
こうした「感情の清新」を維持しながら、作歌をどうかつづけてほしいとおもう。
このひとこそは、短歌に祝福されている。
(阿部)







福島 遥
きんいろ
――2010年前期末提出歌集








【1章 はじまる】


比較的ひまわりであるあの人を夏の歌集の冒頭に挿す 




とうめいなみどりかざしてアスパラガスこの夏がもう始まっている




さらりさらり風がわたっていく夏は洗濯物にまぎれていたい




まひるまの湯気に包まれおもいだす祭りの前の愛しい火照り




きのうから妙にゆれてるぼく一人夜になったら訊ねてみよう




今ならば 角を曲がって考えるどんなに曲がっても曲がっても角




もういないということがいつまでもとけないほどにきみはやさしい




虚しさの真ん中に建つ一軒家の扉を叩く強さが欲しい




人知れず君のドアーが開いた 今、月の灯りがそれに気づいた




からだ中ひとりっきりが染みている夏の夜の職務質問やさしい




ひとまずは鏡の前で私です私です私です私です




ぼくが今つかえる言葉を球根と一緒に畑に植えてしまおう 




環状の流れに乗れず一日をズレ続けて走っています、わたし




まんなかが空洞である二十年生きていてもまだ空洞である




心中をしようかと言い駆け出して贅沢なアイスを買って帰る




タケノコがプラットホームに落ちていてそれなのに君はさよならなんて




たいように睡眠薬をうって 今、見たこともない顔をする君




ふれるのをためらっている君にだけ潮満つる音遠く聴こえる




泣き顔がばれないように味噌汁をもう何回も味見している




踏切りの向こうに行ったことがないもう二度とこのまちにはこない




ほんとうのことを伝える練習をだまって聞いてくれるやさいたち




いけすの魚にがしてまわる どさくさにまぎれて君も私も海へ




手のひらがつるつるなので掴めない概念はまだ放っておこう






【2章 さがす】


夏行きの夜汽車に乗っていることの不思議をひとまず恋としておく




今朝方に見知らぬ男がおとずれてあれはおそらく夏というひと




いっこうに昼間である日 家猫になってもねむりに墜ちないのです




やさしさを運んでくれたみずいろの風にはだいろお返事として




「ごめんね」のごの字の口をひらくとき溶けた氷がカランと響く




一篇の詩歌になっていくからだ君がわたしにすっとさしこむ




どうしてもつくれない色あけがたの空からもらうバケツをかかげ




さっきより音色が高くなっているあなたの弦をそっとつま弾く




今そこでひらけたこころ、わたくしは、はくじつのなか標本になる




システムをこわしていって最後にはハダカンボウのわたしを撫でて




おやすみとおやすみの間のしずかなる呼吸のように香る茉莉花




さよならはゆうびんポストの星空でしんと冷えゆく青い便箋




花の名を知らないと言うひとの唇からぬすむ さ、ざ、ん、か、の か




いつだって既視感だけで生きていてまるで世界はひとつの映画




さよならがいえない君はいつまでもひらひらと夜に舞うモンシロチョウ 




正しさの美学を語るおばさんがきんいろに塗ってしまったことり




失敗ではないと思うので歌いますグッドバイ・マイ・ラヴァー(閉幕)




「将来は何屋さんになりたいの?」ってだれか訊いてよ(みんな嘘つき)




詩歌というウサギの顔したトラを飼い今日はひとまず草を食べてる




スケジュール手帳のうえの空白をやさしく埋める西国の人






【3章 つづく】


ともだちになりたいあなたもうだれもかれもがひらがなではなすよあけ




陰であるひとが落とした紙切れのなかに見つけた太陽のこと




はじめての眼鏡をはずすその隙に、わたしはあなたの友達になる




日没後、ひとりあなたが思うことそこに宇宙はつながっている?




すりむいた傷がいとしい夕べには、体育座りで囁くひみつ




灰色がこの世でいちばんうつくしくなる瞬間にぼくは泣いてる




あの人がひらひら落とす花びらもまだ私にはすくえないこと




鐘の音に耳をすましているような顔でこころの破片を拾う




つなわたりしていることに気づかずに軽く手をかけるところだった




爆弾を抱えているとそのうちにそこから花が咲くこともある




白黒のフィルムで撮った虹をみるきみのひとみが七色なこと




やわらかくなってしまった私の世界にきみは足をとられた




愛の絵を間近くで見てそれ以来こころのなかにわたあめがある




やさしさをよわいことばの例としてわたしは紙上で途方に暮れる




一切の思考回路を封鎖する空いちめんのむらさききゃべつ




失ったことのないもの少しだけ傷つけてから抱いて眠った




あいまいな箱の中身をあっさりと売り渡したあと一人で泣いた




もうすぐで終わりとわかる手ごたえの悲しい重みに身を横たえる




傷ついた果物抱えやじるしに沿ってあるいて見つけた銀河




みぞおちの砂場を水でひたすほどやさしい呼吸を知っているひと




しあわせがきんいろをして立っているのでおそろしくて布団をかぶる




この夏がまだ続くという簡単なことにしばらく気付けずにいる











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