▼詩
ネット句集『馬上』
ネット句集『馬上』
※作句ごとに以後も随時更新
上澄みの下なる灰よ東京市
上しもに東方の絮ひと恋うて
南天は紅くなだるる嚢にして
恚(いか)りたり虎がおのれを着てをれば
天がした一棒のわれ流るるや
塩喰つて馬喰つて僧、ぶつた斬る
紋鮫よ血は新しき胃は旧き
新酒のゑひあかるくてゆびくらき
家焼けてきのふの空の新しさ
角まがるたび腑分けさる身の列島
真青なるきもちよ柿を掴む天
馬油あるわたくしの夜朽ち果てて
梅一輪遊星の外(と)へ咲きこぼれ
音楽は涙に似たり冬雪隠
晩節を涜さむとして水仙や
部屋隅で鬼となるべし冬没日
売るものなき日のもとわれら浮寝鳥
枯蓮の星座となりぬ橋ゆくも
友達はあたたかきホト春の水
恋猫の総毛尖るや金砂集む
早変る遠賀にありて猫おぼろ
夏柑に機関あるべし霜下りて
月齢に引き算をする冬颪
騎乗位や一基の墓が夕に建つ
後背位誰が犬となる鱗坂
正常位残菊ふたつ結ぶまで
思ひ出の松葉崩して海鳴りや
側位して斜交ひの陽に町無惨
凧墜つる音繚乱と葛飾区
音のごときもの檻にあり影はなく
閻王よわが股間には音充つる
刑星では草と音とが同じうす
春、カレー粉や身の音ひそかに運びをり
田の便り眠りのふちは汀かな
くろがねにほふをんなを柳下にシバきゐて
鯛刺の藍皿よけれ文机に
葱なびく常世闇にて舟寝せり
右手(めて)にある愁ひ恃むや春鬱金
緋すすきの百を算へて火所を去る
拷の字に吊し斬りせり銀一頭
陽炎に女を見たり尿(いばり)して
瞰(み)下ろせば肋の夢も宀(うかんむり)
即身朧と化して春滝に対(むか)ふ
椀をもつ腕の湾曲、海藻(みる)啜る
棒客の次つぎと訪ふ円寂境
谷底で九牛が円になつてゐる
円空に雲雀の粉が光りをり
酩酊は桜さくらの塵をゆく
アノニムのゆび触れあつてアニメかな
鯨ベーコンに薄く轟く海の脂(し)や
老いて咲く花眼や文字の花の奥
口腔に味蕾ひらきて春葛湯
雁喰うて二階ばかりの此世美(は)し
春は女を二階に置いて鵺を焼く
酒すすむほどに総身も入江かな
尻魂(しりだま)や行き交ふ路の蝶や蝶
星飼とこの名呼ばれてクレタびと
身は惚けて犬は箱なり箱を見てゐる
両国もカイツクロヒヌ鶉二羽
吾(あ)はわれの模倣犯たれ春柳
十界に蚊の嘔気ありひこばえて
井戸端やイシスいざなみ妻二匹
回診がわがこと春は粉ぐすり
どぜう喰ふ山椒地帯の男かな
ばけもんが婆羅門の昼吾(あ)を放る
桜波此世に白く長きこと
此世とは女のかたちの樹間かな
空中に空遺りたり鳥死以後
わたくしと同寸の樹へ喃語など
別荘の百建つひかりわが黄泉は
花眼ふと具のなき鍋を構想す
透くものを川に算へて線供養
策謀を友とす以来かぜだるま
耳遠や無弦の琴に恍惚す
菱形の仔犬が膝や阿弥陀堂
盗賊が丘下りゆく春はこべ
あはれ蚊よ血のなきわれとここで遊べ
晩愚われ狐狸山猫と火を焚きて
下天まほろば二門にふたつ奥ありて
雉の羽を毟りては遭ふ風自体
終始一個の異存となりて春凝る
六腑中紫腑を選びて魏に献ず
掌上の気楼にふとある豹斑かな
身は花喰ひのひかり乞食の器かな
火野へ来てなほ太刀魚(を)提ぐ身は星斑
昂然と粉噴きあぐる奈良の芥子
笑ひあふ双つ身が筒、泥炭野
五臓のひとつざわめくここが葉のごとし
隠れ葉に草書流るる明けの闇
泣き喰ひの飯のひかりや予後五年
瞑れば画光音光書物光
かなぶんが光る万象鬱の網
満身の枯葉の光をいかにせん
風紋に匪の趨ること痛ましゑ
むらさきと旅装を決めて墓域ゆく
瞑目や青斑の頭蓋星にして
詩書読むは繭玉の眼を糸にする
白日夢葛粉三々五々四散
卵割れたちまち川は霞かな
ひと日かけ卵割りたり微力の魔
滝なべて女と知れり遅けれど
てのひらに此世をつくり業火見る
支流、血管に似て列島の蛇身かな
鷹番の鷹への恋も円のうち
絶景は千匹の鬼つねに佇つ
春終り一隅冷ゆる忘れ妻
憂きひとの半円とほき朝餉かな
半死後に坂東太郎と酌み交す
卵帝の回想の黄身あかねさす
一生を海鼠が笑ふ俳句性
薄紫篇落手ののちの手の不明
繊花舞ふ厠の思考尿(しと)すれば
悪運や阿部嘉昭には阿部の雨
交みゐて女の麹を酔ひまはす
木下闇鳥目を分かつ吾と虻と
樹の眸(まみ)に見られて睦むわれ二人
月明や平句ばかりの月夜茸
忘れじの掌浮かす潭ひとつ
枯葉雨犬順ひて過去となる
舌神経夏あかるけれ白湯飲む
穂すすきに西王の貌来りそむ
酢くらげを皿より離し髪痺る
句世界に小句燦々バイク事故
Z(ゼエ)と啼く牛二頭にて夕焉る
温泉に硫黄男が哭き溶ける
少年老いて少年厭ふ夏の瀞
かげろふを屋根に連れだす死川炎ゆ
片腕を性器に代へて霧に挿す
ゐざりゆく紫木蓮まで命かな
星合や女として世界に入りぬ
口吸うて順序狂ひぬあいうねの
狼が霧にちぢんで灰こぼす
将棋盤百千並べる灰海波
いちぢくを剥けり喫人兆すまで
狼貌の男ふたりの二瓣ばな
孵すものなき狼の胡坐美(は)し
てのひらに牛一頭分の迷宮や
作文(さくもん)に門を設けて風の白
曖昧やイの字が二つ胃もふたつ
異浄土に棒佇つ打倒断念後
穴子焼くこの身も夏に煙りして
銃もちて貴公子然と腕定(き)まる
芥子生ゆる野に義絶あり日傘ゆく
八方を視て割るるわがアクタイオン
殺生の鰹まないた黄の滲み
万霊のソラリゼーション雲の峰
終生や百蛇とりかへ差しいだす
引き絞る乙女の胴を滝登り
やはらかき複数もてり女繭
童顔に十年後なし額の花
無差別に似る死の掟馬吹かる
草央に苦なる草あり草微光
すすき世を背伸びてゆくも頭(づ)は没す
畝火なす詩の型をふと掌(て)に享くも
べらぼうの棒無頼にて女撲つ
頬杖を鬱循りつつ萌黄なる
背を向けて菊煮る女に吹雪視ゆ
落胆の馬は脚より草となる
六月や馬のみどりを眸にみる
色彩は音とよモネの銀曜日
破れ蓮のむかうにひそと墨の邦
古代朱の弁舌さみし鷽(うそ)の舌
渤海をみたしめ冷ゆる一人風呂
昼蛍その場を占めて予兆かな
霊長の数千流れて提灯夜
酌むいまは花影もなし鬱勃堂
過渡ならば光あふるる二児ヶ原
今生を千倍せんと秋の角
手の用途不明になれば石榴もつ
山鳥の山衰記かもランドセル
蝦として加齢した夜の泪声
嘶くは馬の発端あきつの日
見ぬ夏よ机に来てゐるあすの蠅
欧といふ緩衝地ありなづき奥
寂光の汝をのの字に挿しまはす
鉄錆に秋視ておのれ裏返す
馬上に小さき花国ありて塵うらら
瓢箪や世界ふたつの金剛力
菰を着て猶予だらけの尿(しと)姿
枯草の自洗さびしき穢(わい)の暮
愁ひゐてわが腸千切り風となる
炎天や水へ溶くものかぎりなし
肝古りて草の酒飲む月の有無
存在の門に葉が降り鹿も見ゆ
柩寸(きうすん)にわが身固めて屋根に佇つ
真白なるひとで奇よりも愛すかな
可換体としてリンボと夏が在る
他界にて縞馬の縞流れゆく
なづきにある海馬、私の涯のはて
山蛭や黄泉となるまで著莪を吸ふ
口よりぞ我も出でゆけ出羽つ瞽女
接いで剥ぐ少女の原資よるがほに
凝血なく白くみだれてロトの裔
はつあきは蜥蜴のゆびでまはす水
躯には銀漢のあと漆食む
総身より滝出でゆきぬ鬼と寝て
枇杷の森に少女がふたりそれも枇杷
風鈴を脳髄として少女寝る
白雨にて消えゆく契り川にゐて
耳畳み蜩聴かず幹に凭る
天上は女だらけに大火かな
水難を女難に代へて接岸す
わが女声閉づるがごとく本を閉づ
秋の蚊もあきつも弱し夕浄土
錦鯉朝めくるごとぬつと寄る
陋屋に追慕の粉のやうなもの
虚帝らと浮世の外の風呂にゐて
地震(なゐ)ののち澄む井戸水に畏怖ひとつ
減少を詩にしてすこし右手透く
没頭のごとし桔梗に頭(づ)を容れる
四不像の鵺の悲をもて詩集編む
吟行は銀に遭ふ旅すすき世の
鈍痛に似て檻なかの鷹の羽
花の数くづれてただの数となる
問答が川しもへ往く猿と猿
青降つて別世界なり茗荷谷
のどくろや三界に白なく焼かる
朝朝に露ある恋のおろかさよ
千歳後の倭人伝かなこの俳も
しろたへの鹿組み伏して綺羅綺羅す
黄金(わうごん)や百寝ののちの我を労(ね)ぐ
物陰の十や二十が過去にある
河辺にて漱ぎ口より秋となる
あなうらの鱗笑へる渡河ならん
城装束と白装束遭ふ男坂
白桃のうぶげ夕時の因陀羅は
白白とくりかへし嘔き線となる
白さもて乞はれ眼ぞこ闇ふかし
白芒の泳ぐ野を死後厠とす
白なまず真水を往きて白盲す
白なまず憂き水煙となる世まで
月界に糸の城あり町亡ぶ
貝の引く潮むらさき海の墓
海人(あま)睡る鯨なき世の銛ひとつ
産道に流星あつて忌みの明け
都鳥あばらを欠いて朝に満つ
麩のみ食(を)す一季節あり減我境
灯ともさず暗誦のここ獣あり
絹を着る身に流れそむ砂金川
徒手のまま星井を過ぎて捨身美(は)し
ひそかにて秋うら返る反土星
犬の透く刹那みてゐる午前かな
揺籃期ゆれやまずして身のみどり
月裏の泪に女群似たるかな
深更にからだ哭くまま秋の棒
首のみの麒麟抱く夜の火伝説
穀物神とほくに焼けて雲のすぢ
浮きに似る綿負ひ秋野くだる日も
竜五千川をながれて空暮れる
秋冷の壷に鹿ゆく鹿ゆかず
水巻いて一遁世となる魚も
大望を煙に代へて章魚ふかし
境涯を流水にして野にしやがむ
右耳を立てる犬顔われ五十
馬上にも馬つづく秋、韃靼を
けざやかに艶書を曝す江戸供養
導眠刑たましひ冷えの樹下のひと
女旱を千年つづけ蚊もをみな
遠縁が溶けゆく先に海の秋
松虫に松のこと聞く露酌みて
来信はインクの秋なる空の創(きず)
鬼門へと出没しては鬼となる
陰嚢の青泳がせて湯に笑ふ
花の青よるにまぎれてただの青
滝となるまでも背後位にて狂ふ
一咳もて判別狂ふ身の繊さ
一生(ひとよ)狂はば沼啖ふまで鯰たれ
秋日ふと指間の掻きの軽くなる
粥煮つつ厨に顔を失へり
作句完了リセットをしてをみな撲つ
厩にて馬以前の苦が馬を喰ふ
魔像ひとつ像の魔となる誰そ彼に
萱草よ武尊に焼かるとただ思へ
菊衆と名告らんわれら草の旅
朝霧や鹿の気配ののちの金
絵師ふたり互みを描いて玄き冬
動かざる鯉よ定まる魔羅の寸
絶壁を花車がながれて処刑台
鳶高く天につくれり風の門
月齢を逆さ読みする手鏡に
集解をこのむ机前に旅装して
稠林や脳の疎なる日紛れゆく
十字架は頭(づ)に立つ酌まん盗人と
半盲の犬の多さよ朝やさし
逆さ世は仏の座にも靄の乗る
アッシジに頭(づ)を置き忘れトルソわれ
松籟や天上縊死の二つ三つ
東風ぞ吹く粉となりゆく馬糞かな
首抜きて霧に真向かふ睡ければ
坐臥なぜか水になりゆき細魚顔
廃位よりおのれ瞰下ろす鳳の惨
落ち雁に逆さ比叡が迫り来る
始まりを鎮めて我は汝の上
寂魂が生(な)れども雨は樹をとほる
愁殺後円不完全紫生活
湖心ひとつ睡らんとして雲映す
貝のごと遠浅の世に交むのみ
雁数羽黄泉を見せ合ふ落下まで
海馬には落丁ありぬ人が美(は)し
主を売りて冬の脱衣に縮むのみ
牛の胃に種ある頃よ東風流る
草焼きに日本武尊のおもかげや
水すまし過去へ往くもの限りなし
光陰や汝が花衣わが衣
人刺して瀉血すずしき金の夕
擾の痕いささかもなし神河原
雙が欠け一隻となる鳥を惟ふ
海坂へ胸坂向けて肺の春
水死せよとふ暗示あるらしこの火野に
秘書秘書と土筆崩るる音もして
梅林や今といふ過去嗤ふべし
一朝に一夕感ず迅きわれは
得恋は雲形定規をもつに似て
七草の七廻りくる身の内外
浦菊も裏菊もある水のうへ
牛黄(ごわう)を掌(て)に汗牛なりし日々も追ふ
美(は)しきもの四土を廻れる馬車の燦
水理なき水の彼方のはるもにあ
煩に堪へ内観の花やがて奇(く)し
をみなこそ春着のかるさ哀しまん
愛しあふ朝のなべてや麦日和
眼上の目薬を見る春近し
六徳の何か一徳闕けてをり
類音を霊とする日の詩三昧
胡坐して身の陋狭を愉しまん
黄熱しきのふの滝もをみなかな
九牛の九以てする一足らず
藤のもと色のあやふし愁ひ犬
迅速や悪党抜けし虹のあと
はらわたや幽界の穢の迅きこと
四阿に蜉蝣まねき炎ゆるのみ
己れまで片づけ晦日たれもゐず
見初めては無想が戻る馬恋は
地響に涯なく人や一音符
白蝶あまた現世も狂ふこと多少
波際や肺も汀となつてゐる
初花や仄か明るむ庭のひと
眼の奥の刻一刻や牛の貌
転学やクレソンの餐苦きのみ
酔芙蓉も睡蓮もあるゑひのうち
有漏の身もやがて蒲団の横霞
あな自慰の初夏は一回性の倒れ
花合歓のもと首なく千回寝たるかな
南風に脳ほどく日の馬笑ひ
吾は天の会陰か苦に身が濡れてゐる
吸物に鵜肉を入れた泣くために
伐採し腋臭みたしめ林出る
愛撫せし犬をほどいて手紙とす
レタス巻きそこねて夢見ことに悪し
蟻酸とは何の酸、けふアリババ忌
それも馬上と呼ぶなら馬は黄泉を駆け
蕎麦の花に泣いて百年潤みゆく
干し物の乾く地上も天体か
世界中の橋落つわれら朝焼けて
転宿が世のつね池に星あかり
稲の秋近づく蝶も音速に
夕眺めこころの裾にあきつ満つ
龍胆に遭ふは龍胆になれる身ぞ
全人や鈴虫もいま消え響く
壷数箇寺院的なる窓の冷え
身の左右〔さう〕に絮翔びゆけり秋も春
ブーメラン鳥となりて釣銭掠む愉し
鰯雲みどりにみえて遺骸〔むくろ〕われ
海峡が蒼排尿の異名とて
釈迦寝する右足を掻くひだりあし
天装や湯女〔ゆな〕となるまで湯当りす
くろがねの秋水匂ふ天の肝
路銀みちて歩かずの秋哀しけれ
在血と呼ばるすなはち恋嚢〔ぶくろ〕
四階分ほどの乞食の高さでゆく
ブラックに脇破れゐてわれ蓮〔はちす〕
蓮者〔はすもの〕となりて天穢に薄れゆく
気絶しさうな蓮田だつたか天翔けて
北端やあの牛齢も光芒に
弁当ゆ辞典とりだす坐位すゝき
鉄路とは永久のつうろよ眠り寝て
木犀の粉散り女男〔めを〕の不能散る
天下透くそこひの秋やあふぎ棄つ
兄丸もおとうとまるも檻の秋
水澄むを地軸訪ねる眼へまねく
外套の季となり涸井抱き容るる
翔ぶ百舌も油滴のごとし夕焼かな
秋花火無象の無垢の消ゆるまで
をみなとは気の置きどころ初紅葉
花野朝みちくる水に花消えて
萩刈りて諦観銀の世を納む
酸橘〔すだち〕射し一死魚の眼の恍惚す
胡桃から音の予感の秋集む
蜉蝣や流水に分身産みて
たれ蒔きし約束のたね一星河
茫然や薄となりて手折らるる
金魚田に分身置きてつるむのみ
夕映や異世界の朱も鼻に来ませり
悪いことすれば伴侶に星殖える
白蚊帳で泣く白おぼろ白少女
鰯腹叩き見る空の秋祭
蜉蝣に斬られはらわた始まるか
押し倒す女のなかに日章旗
酔うて死に我と我うち重なりぬ
露の世に醒めて甘露と共にあり
毛の生える絶対神も穀物か
