▼詩

望遠が立つ

望遠が立つ

【望遠が立つ】
阿部嘉昭
07.1.10 mixi up


我々は我々に馴染まぬものを負う
我々が他人に知られるのは
この二重化の衣擦れによってだ
いつしか虹を見たか――あれが
我々の海をその尾で曳いた溜息だった


我々は音楽で己が鳩尾を区切り
「それより上」を風へ紛るに任す
はためいているのは旗ではなく我々
数千の惨敗をかける秤もない
短征を無限に重ねた走破も小さい


我々は我々の木霊するものを放つ
空中の矢が放射状に花咲くとき
謂れのあった千秒が共に散る
厳寒や玄冬が少し前に来ている。
だが我々の胸は洗濯板に擦る


我々の旨は「水で出来た城」
あすの保証のためにゆらめき通す
虚言のバトン ダッシュのタッチ
泣くべき泪が怯懦して眼に返れば
虚空には変転の証 瞑目を重ねた


そこに寝床を敷かなければならない
たとえば其処とは盲目で夕映えの湯
我々は浮かびあがって兌換を待つ
態勢は西行の西に傾いてはいる
黄色いものだけを静かに撃てよ


否 打つな――副文化の好球は。
ただ等しくなるため塒を築けばいい
縫い合わせた過誤で襤褸となった国
味のしない幸福を鮫に取り置いて
寝覚めの目脂が我々の花粉色だ


我々の籠に摘まれる帰途の籠
倍音の雫が抒情を乗り越えて
今しもコップが満ちすぎようとする
この結果論に貴賓の俤がある
我々は頬杖のままに眼前を放置した


心配りに安売りの心を配った
或いはクタバった――未明のままで。
春先に交易されるものを遠目にし
我々は互いの腕を木枯れた枝にして
刺し交わし酌み交わし突如老いる


油にまみれた詩の職務を引き継ぎ
あらゆる月下で藍染めをおこなう
昨日より天上より幼くなった妹を
組み敷くかたちにして我々が割れる
砕片Aと砕片Bをつなぐ物語もあるが


どっちにしたって二字で構成される、
この「孤独」には輝く単性がない
孤りと独りが密通し夜半を触れ合う
あるいは夜半が夜半の内部にある
だから兌換待ちの鞄を裏返してみた


猥 猥――王のために盛りあがる歓呼
振りあげた手が消える季節の波になる
学園は花園に白いままでは残存しない
屈む気配が縮小鏡に滞るだけだ
いつかのルゴオルに嗄れた喉も濡らし


木刀を立て掛けた部室に神話があった
それが日時計として世界回転に添う限り。
或いは其処が乱交の巡りとなった限りで
我々は我々をひたすら濡れて流れた
音声をせよ――残響を超えるべく


我々の犬と 犬の我々が親しい
この凶暴さを十字型の丘に振り撒く
絶句として呑まれた水銀に似て
我々の背丈が体温計状に変化する
変化するものだけに親しみ、この我々は。


もうすでに除雪=序説車を失ったのだ、
点火導線が神性とも不埒にからまる
ひとしきり不敗が勝利に溶けている
だがその分離線こそが学校の塀だった
確かに校舎は円に囲まれ須磨にあった


狼狂は足の着かない高椅子に鎮座する
その高さを月光の深さにまで伸ばす
憶えのない防寒着がこの身にある
天語の行き交いが暁の前に寒い
我々は 形代の形に純潔をあしらう


たった十銭の 瓦屋根の重畳に光を。
我々は我々に馴染まぬものを負う
だが我々への約束が履行されていない
それで免疫の祝儀を奪いつくしたのだ
我々は静かに二人となり五人となった


それだけだ――それだけだ、
我々の仕出かした木霊は。
これだけだ――これだけだ、
我々の呑んだ砂の総量は。
きっと墓地には望遠が立つだろう





昨日、書肆山田に08年1月末に出る詩集、
『昨日知った、あらゆる声で』の校了ゲラをもっていった。
ここにアップしたのは、そこから洩れた詩篇。
小池昌代さんが、他に較べて出来がいまいち、
と示唆してくれた結果の割愛だが、
書いた当人としては一応の愛着がある。
あるいは小池さんは稲川方人さんからの影響を
是としなかったのかもしれない。
わかる、といえばわかる。
(07.12.21)

●同じカテゴリー「詩」: リンク一覧

up