▼詩
秋になったので
秋になったので
【秋になったので】
阿部嘉昭
06.10.02 mixi up
死体のように冷ややかな秋を
サンクト・ボレル寺院が望んでいる
司祭領菜園では夥しい花の目玉が
向こうとこちらを隔てる丘のうえ
風が炸裂し、苦しい歌を漏らすのを
百年もずっと見届けている
誰に証言するために
誰に証言するために?
このとおり秋が失望から始まってもよい
やがて祭壇には蝋燭がともされて
その揺らめきに獣の耳が集中するだろう
炎の消えた芯には「垂直」も現れるだろう
昂然と野をゆく盗賊たちにとって
移動のかたちそのものに野が展けている
茫然たる地上が空に噴きあげる秋、
銀貨一枚で「泥棒をひと滴」と注文した
あの集団のいちばん若い男、その顔が
つるべ落としの暗がりの標的となる
誰に証言するために
誰に証言するために?
スープ一杯で「足るを知る」
でも銀色のスープなど存在しない
心で飲めるものとてこの余暇にはない
だからいま私-君が黙ったままに向き合う
「あの彫像の動作を」、そう愛が乞われる
「あのせせらぎの響きを」、そう歌が乞われる
盗んだものを食べて暮らしました
夏に口に入れたのは黒い果実ばかり
腹を下して眼下に神の粥を見ました
一幅の絵に辿りつくまでそんな日々だった
誰に証言するために
誰に証言するために?
魚たちの脇腹に花づなを飾りたい
もっと南の海へと泳がすために
石に彫られた言葉、沈黙の状態
そこに澄んだ水が溜まり一致が完了する
難破し船員とともに沈んだ数々の海賊旗
そのようにして海の底までが絵巻となる
死んでも秋、けれど蘇っても秋
僕らは後悔の少量を左に載せた天秤をもつ
ほんの僅かな指で小さな音楽が弾きたい
指を取りますか、声の底を取りますか、
誰に証言するために
誰に証言するために?
本当は待ち人の迎えを林で待ってる
吹き渡ってくるのが僕の語るべき言葉
プロンプターの無制限の設置によって
この劇が神学上の神聖劇にもなるのだろう
その秋の銀色の筋を最後まで辿りたい
胃を冷やすくだものも口にしなくなるだろう
市場では懐かしい友だちに出会い
マンドリンふたつで灰色のギグをやる
天幕をまとい 訪れる寒さをしのぐんだ
君のことだよ、ハンカチで淋しさを拭うべきは
誰に証言するために
誰に証言するために?
季節の呼び声を僕らの木霊の代わりにする
だからあまり庭で煙もあげてはならない
否定してもいけない、それがたとえ壁の裏ででも。
ただ壁にもたれ空の色の変わるのが見たいんだ
余すところなく秋風 地上もいつか群青
恋人どうしの歩き方など自然と身につくものだ
互いに沿い 多くの川筋に沿って力が生まれる
重なる声から銀色の滴もしたたり落ちる
君は天の 秋の 果物 百種類の
ざくろのように裂けたそこから虹も見える
誰に証言するために
誰に証言するために?
僕らは互いに触れつづけ 躯の重たさを知る
僕らは揮発しない ただ代わりに太鼓が炎える
失望から始まった秋はそれでも愁いを細らせ
もう僕らの行き先には自由な狼が走り回る
