▼2006年度 早稲田大学前期義転載レポート

ビータリカについて(末松 浩一郎)

【解題】
 末松浩一郎君の扱うビータリカは厳密には60-70年代のロックジャンアントではない。現在のバンドだ。だが、本文に目をとおせばすぐに判明するように、ビートルズの歌詞にへヴィメタル文脈で圧縮をかけ、それをヘヴィメタ/パンクの色彩で演奏するバンドのようだ。末松君は書き落としているが、そうはいっても楽曲/唱法にもとのビートルズの残骸もちりばめられているのではないか。

 ビートルズの後継ということでは一般的にはXTCにまず指を屈するのが普通だ。同時代で短期間フォロワーとなったバンドでは、『サタニック・マジェスティーズ』のストーンズ、『アーサー』あたりのキンクスが僕は好きだ。あるいはビートルズ風に聴えるがビートルズではなかった突出例としては、モンティパイソン一派が企んだラトルズがある。そのどれともビータリカがちがっている。つまり、末松君の文章をみれば、ビートルズというロック史の「中心」に、へヴィメタ、パンクといった別機軸を垂直に押し込んで、その曲自体のみならず、ロック史の奥行を立体的に味合わせる、遊戯性と偏差値の高い、まさに「いま」の音楽だということがわかるだろう。

 僕が未聴の音楽を扱ったレポートは、僕に是が非でも聴きたいとおもわせれば、それで「勝ち」。よって末松レポートの転載となった。ただしそうおもわせるために大きな貢献をしたのが、末松君自身によるビータリカ歌曲の訳詩だった点は強調されていいだろう。順に、「サージェント・へパーズ・・」「ハード・デイズ・ナイト」「バック・イン・ザ・USSR」「フォー・ノー・ワン」がパロられているとは、一行目に目をとおしただけでわかる。そして笑ってしまう。こういうものの訳詩は元歌の歌詞がアタマにあって、しかもユーモア感覚があってできることだ。罰当たりバンド、スコーピオンズを近親憎悪的にあてこする「逸脱」の感覚など、抜群に可笑しい。

 僕は今回の講義をオヤジ世代の回顧趣味でやったのではない。ロック音楽の最大値を、ロックの死後を生きる現在の音楽シーンに転用し、それで新しい音楽を学生たちに構想させるつもりだった。その意図を確実に末松君は嗅ぎ取っている。だからジャンル区分/古さと新しさの攪乱を狙ったロック起源の現在の音楽をレポートに扱ったのだろう。
(阿部)

ビータリカについて(末松 浩一郎)



馬に跨れ四騎士よ
       ――ビータリカについて

第二文学部 表現・芸術系専修 3年 末松 浩一郎


 世の中にビートルズのカバー曲、またはコピーバンドは数あれど、音楽的な面や演奏者のキャラクターとして突出したものを備えているものはあまり見受けられなかった。それらの多くは良くも悪くもポップス音楽としてのマーケティングを前提に、楽曲や歌い手などの選択も無難に作られたありきたりなカバー曲や、かつてビートルズやグループサウンズに血道を上げたであろう中高年の人々らによる、あくまで原曲に忠実な演奏の(技術的には高度かもしれないが)物真似の域を出ない程度のものがほとんどといえる。

 しかし去る2005年の4月に日本のごく一部でひとつのカバーバンドが話題を呼んだ。このバンドの名前は“beatallica(ビータリカ)”という。名前からも想像がつくが、ビートルズの楽曲をメタリカの演奏でカバーするというスタイルの、かつてない斬新なカバーバンドである。

 このビータリカというバンドは、Jaymz Lennfield、Krk Hammettson、Kliff McBurtney、Ringo Larzの4人のメンバーで構成されている。それぞれビートルズとメタリカの名前をパロディにしているのだが、ベーシストに現在のメンバーでなく、初期メンバーのクリフ・バートンの名前を持ってきていることからも彼らのメタリカへの入れ込みようが伝わる。

 James Hetfield、Kirk Hammet、Cliff Burton、Lars Ulrichの4名がメタリカの初期メンバーである。彼らの発表した曲は15曲。現在彼らのサイト上で配信されており、歌詞などもネットで入手可能である。ほとんどの曲がビートルズとメタリカの曲名をもじったもので、いわばパロディバンドである。

 しかしメタリカのカバーとしてもまったく遜色のない演奏と、独特のユニークな歌詞とで一介のパロディバンドとは一線を画している。それぞれビートルズの原曲の歌詞を基にしつつ、メタル、スラッシュ、時には酒という言葉を盛り込んだり、一部の歌詞をメタリカのものとすり換えていたり、メタリカの作品名、歴史的なメタルバンドの作品名などが曲中に登場してくるのが特徴だ。さらに特徴として、“poser band”つまりカッコつけ野郎として実在したバンドの名前が挙げられていることもある。

 まずは彼らの発表順では1作目「A Garage Dayz Night」の一曲目となる、SGT. HETFIELD’S MOTORBREATH PUB BANDの訳詞を紹介したい(訳詞は自らの手によるものです。原文の歌詞は都合上割合しました)。


今から20年前のこと
モーターヘッドがこのバンドに演奏を教えた
初めはとても流行おくれのバンドだったが
彼らはあなたの機嫌を悪くすること請け合い
そこであなたに紹介しましょう
ビール1000杯を飲んだやつを
サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
このショーを楽しんでください
サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
スラッシュの演奏でメタルの音を流す
サージェント・ヘットフィールズ・モーター、サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
ビールが飲めてすばらしい、さあがぶ飲みだ
あなたはとても素敵なオーディエンスだ
モーターブレスをむちゃくちゃにしてあげましょう
あなたも自分の・・・・・・
このショーを続けたいが
教えてあげましょう
ジェームズ・ヘットフィールドが歌うことを
彼は一緒にスラッシュしてくれるよう望んでいる
さあ紹介しましょう
ビール1000倍を飲んだバンドを
サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブバンド
もっとビールをもって来い!!


 この曲では、おなじみのイントロがへヴィーにかき鳴らされる出だしに始まって、ほとんど原曲に忠実な演奏で終わる。歌詞においても、「ビール 1000倍を飲んだバンド」、「スラッシュ」という言葉が見られる程度だが、最後の締めを、「もっとビールをもって来い!!」と終わらせるところにもオリジナリティーは発揮している。

 続いて二曲目「A Garage Dayz Night」歌詞を紹介したい。


ガレッジな一日の夜さ
犬のように働き続けてきた
ガレッジな一日の夜さ
丸太のように眠りこけるんじゃない
お前のために演奏すれば
わかるだろう 俺のやっていることが
お前をいい気分にさせることが
一日中演奏してるんだ
メタルを演奏してお前に耳鳴りを起こさせる
そして“禁断の刺青”が聞きたいんじゃないという
お前の言葉を聞くためケツを蹴り上げるのさ
お前の顔を見たときに
“トラップド アンダー アイス”を演奏するのが楽しいから
いい気分なんだよ
道の上では全てのことがうまくいっていると思える。
俺のさまよい歩く場所では、道路が俺の花嫁になるのさ


 ここに来て、“poser band”が登場している。槍玉に挙げられているのは、ドイツ出身のジャーマンメタルの雄、スコーピオンズである。偉大なるバンドがなぜという気分になるが、ここで挙げられているのはマーケットを意識した路線変更した時代の作品であり、一途なメタルマニアのbeatallicaとしては認めたくないものだったのだろう。メタリカの曲名も挙げられていて、最後はメタリカの「whereever I may roam」の歌詞で締めくくられている。

 音楽的には軽快さが印象に残り、Green day等のパンクバンドの演奏のようにも思える。その中にあってボーカル、ジェイムズ・レンフィールドの低く響く声がメタルらしさを伝えている。

 次に二作目の「beatallica」から「BLACKENED THE U.S.S.R」を。


マイアミから飛んできたカーク、ラーズ、クリフ、そして俺
昨夜の死のムチの踊り
途中で紙袋が俺のヒザに乗っかった
天井のライトに当たることさえできなかった
俺たちはU.S.S.R.を黒く塗りつぶした
カーク、クリフ、俺、そしてラーズも!
U.S.S.Rを黒く塗りつぶしたんだ
長い間離れていすぎたから場所をめちゃくちゃにしてしまった
チクショウ!もう家に戻ったほうがいいようだ
母なる地球と人類に対する死
少なくともビールが泡立っている限りの間は
俺たちはU.S.S.Rを黒く塗りつぶした
カーク、クリフ、俺、そしてラーズもうおお!
俺たちはU.S.S.Rを黒く塗りつぶした
ああ、ウクライナの安酒は俺をこてんぱんにした
見えるものは全ては不明瞭だ
そしてモスクワのウォッカを飲んで俺はわめいたり叫んだりした
そしてグルジアは最も濃、濃、濃い力、力、力、力、力を持っていた!まさか!
ウオオオア!デカダンスは変わらずだし俺たちがお前の聴力に害を与える
のは間違いないことだ
さあフライングVの響く音を聞かせてくれ
ああ、なんということだ!俺のビールがぬるいじゃないか!
うおおおおお!聞いてくれレミーよ!!
イェー、俺は黒く塗りつぶされた!!黒く塗りつぶされた!!」


 タイトルである「BLACKENED THE U.S.S.R」とはメタリカの「BLACKENED」と「BACK IN THE U.S.S.R.」のパロディである。「BLACKENED」では環境が黒く塗りつぶされ(汚染され)ることを歌っていたものだが、こちらは黒く塗りつぶされるのは意識のほうで、むしろ泥酔状態とでも言ったほうがよさそうである。歌詞の中にも酒に関する言葉がいくつも出てきている。最後にはへヴィーメタルバンド、モーターヘッドのレミー・キルミスキーの名前が出てきている。酔っ払いソングである。曲の後半部分はメタリカの「BLACKENED」に近いパートが接合されていて、一種の接合異常である。こういった有名曲のリフやフレーズを持ち出すことでパロディーを効果的にしている。

 最後に個人的には最も印象に残ったこの曲、「FOR HORSEMAN」を紹介したい。


一日が始まると、心がうずきだす
もはや彼女が食わせてくれなくなってから
飢えの苦しみが続いている
一度罪を働き、もう一度罪を働く
滅ぶことのない冷酷なメタルの憤怒の中で
時間はただ自分を見ている

お前の瞳の中、無の王者であるお前がそこにいる
涙の跡に愛のしるしとなるものは見つからない
馬に跨れ 四騎士よ
ああラーズよ、ビールをもう一杯持ってきてくれ
家の中にひきこもるな 外へ出かけろ
お前の救助のためにカルテットが馬に乗り現れる
今夜お前は何もできやしない
お前は求めている 必要としている
害悪はそのまま残されている
お前が確かに耐え忍ぶ死
一日が始まると、心がうずきだす
お前はガールフレンドにくそったれの気取り屋ウィンガーのコンサート
に連れて行かされる
彼女のことなんて忘れちまえ


 タイトルは「FOR NO ONE」と「Four Horsemen」のパロディーで洒落が効いている。歌詞においても彼女にすがる生活力のないバンドマンの姿が浮かび上がってくるようだ。最後の部分では “poser”としてウィンガーというバンドが挙げられている。スラッシュメタル一筋の若者にとっては、ファッションメタルのコンサートに誘われて百年の恋も冷めるといったところだろうか。メロディーはそのままにビートルズ「FOR NO ONE」の原曲がもつ繊細なイメージをここまで覆した曲として印象深い。

※本文中のbeatallicaに関する音楽ファイル、歌詞等のデータは下記のサイトから入手可能です。

http://beatallica.org/beatallica.html

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