▼2006年度 立教大学前期義転載レポート
小説『彼女たちの距離』(松岡 美希)
【解題】
松岡美希さんの06前期「入門演習」の期末提出物は、小説――それも一読、エロ小説に映るような衝撃的な内容だった。小説は最初、女子高校生たちの群像を提示し、ある少女の出会い系サイトで知り合った男との付き合い→別の少女の同級生との初体験、というように進む。着想全体が最終的に目指しているものは群像的世界の一望と、すぐにわかるのだが、提出期限があったので彼女の小説は現状、未完で中断している。ただこの点はさほど問題ではないだろう。これはたぶん、想像的な描写のエクササイズなのだから。
――僕が彼女の文章に惹かれたのはなぜか。セックス描写が「ひたすら」内発的に書かれているという点だ。つまり「描写」自体が目標とする客観性がここでは「自己→自己」の視線によって過激に箍を外されている。そう、描かれるべきものがむしろ描出を開始している、という転覆があるのだった。この転覆は一面で男性読者の興味本位をも導くだろうが、一面では世界像の惑乱を導く。しかも描かれた少女たちは、たぶん相手を愛することよりも、相手に愛される自分を愛するという罪障を負わされていて、やがては災厄を、自身を軸に見ることになるのではないか。描写に刻々加算されるもののどこかが、たえずそのように危機的なのだった。迫力ある彼女の筆の運びは、この可能性とリンクしている。とすれば自己への不感無覚という、忌まわしい事態が、描かれた「彼女たち」をやがて襲うかもしれない。
とりあえずは自己の欲情と自分自身を「一致」させようとする衝動、それがここではプラスの力となって現れている。ただ、それがやがてどう推移してゆくかがみえない。この点には、松岡さんの現状批評も現れているとおもう。
たとえばこんな一節――《「なんでこの人は出会い系なんてやってるんだろう」/そう思った。常習犯なのだろうか。この人も、寂しく思うことがあるんだろうか。/優しいと思った。少なくともその行為は優しくて、うれしかった。ちゃんと見てくれていることが。向き合ってくれていることが》。この言葉の淋しさや危険が察知できるだろうか。「(私を)見てくれる」ことの悦びだけを基軸にする愛は、やがては逼塞と狭窄と窒息を導く。それでもそこに愛が賭けられるしかない。つまり「見られない私」がおこなうだろう彷徨が「私」と世界に何の充実ももたらさない――この諦観が一節には先取りされていると読むべきなのだ。これを「切ない」といいはしない。何かの端緒となるべき自己把握だとおもうからだ。
(阿部)
小説『彼女たちの距離』(松岡 美希)
小説『彼女たちの距離』
文学部 文学科 文芸・思想専修1年 松岡 美希
「美樹ちゃんさ、ホントやめなってー。フツーに危ないからァ。」
いきなりそう言われて顔を上げると、黄色い箸を持ち上げたまま、マリがこちらを見ていた。その手元を見ると、今日もマリのお弁当はすごくおいしそうで、手が込んでいる。定番の卵焼きに、ブロッコリー、ハンバーグにプチトマト。ご飯にはふりかけじゃなくて、そぼろが乗っている、三色のアレだ。しかも冷凍のものや買ってきたものなんてひとつもないことはみんな知っている。全部手作り。
マリのお母さんは薬剤師として働いているのに、毎朝五時に起きて、マリと中学生の弟とお父さんの分のお弁当を作っているそうだ。まだ誰も友達がいない入学当初、私と席が前後していたがため一緒に過ごした昼食時に、自己紹介の一環として本人が話していたことである。
それ以来、二年になるときのクラス替えでも同じクラスになり、マリとは毎日話している。そしてほぼ毎日、お弁当の説明をされる。昨日なんか、「今日なんてお母さん自分で『なんでお母さん朝から揚げ物してるんだろうね~』って言ってたぁ」ってにこにこして私たちに話した。お母さんが大好きなのだろう。自慢のお母さんが作った自慢のお弁当なのだ。毎日のことだから、たまにこちらがムカッとするときもあるが、天真爛漫というか、いつも誰に対しても悪気のない性格を思うと、憎まれ口のひとつも言えない。たしかにマリが自慢する手製の弁当は、毎日売店のパンを食べている私にとって、うらやましいものだ。そんなことはあまり口に出さないが。
そして今日もそれが始まるかと思っていたら、違っていた。
「美樹ちゃんさ、ホントやめなってー。フツーに危ないからァ。」
「ん?」
「昨日帰りにゆってたことだよ。気が合ったって言っても、出会い系でしょ? 絶対ヤバいよ~。ってゆうかなんでそんなこと隠してたわけ?」
マリはちょっと興奮気味に続ける。
「うーん、隠してたってわけじゃなくて、昨日初めて話したんだよ。」
私はいのまりをちょっと見て言った。
「あはは、確かに」
いのまりの本名は井上鞠子といって、マリと同じ名前である。マリは倉橋麻里子で、私たちのうち、まりこが二人もいるのだ。いのまりとも一年のときは同じクラスで、私とマリといのまりと皐月はいわゆる仲良しグループだった。四人で話しているうちに、二人のまりこをどう呼ぶかという話になって、なんとなく私が略して「いのまり」を提案した気がする。以来、麻里子はマリかマリちゃん、鞠子はいのまりになった。いのまりだけ二年でクラスが別になってしまって、皐月は先月の夏休み中にオーストラリアへ一年留学に行ってしまった。
今学期から皐月がいない寂しさが三人を包み、いのまりは昼休みだけ時々うちのクラスに来て、三人でお昼を食べることになっていた。ちょっとミーハーなマリと違って、いのまりはもっと庶民的で、好奇心旺盛なたくましい女子高生だ。私よりも背が高く、日焼けした肌に、笑うとふっくらとしたほっぺにえくぼができるのがかわいい。逆にマリは背が小さくて、肌が白くて、細い。クラスの子からもみんなにかわいいねって言われている。
「美樹ちゃんいつの間にそんな行動に出てたんだ。やるな~」
いのまりがにこにこして言う。
「笑い事じゃないよー! 今度会うときはちゃんと教えるんだよ!」
常に安全志向のマリは今回の私の行動に相当驚いているようだが、いのまりは興味津々の顔だ。
私はこの夏休み中に出会い系で知り合った男と会った。暇つぶしでなんとなくメールをやり取りしているうちに、会うことになって、意外と優しくていい人だった。午後二時に新宿の三井住友銀行の前で待ち合わせして、すっごく緊張して待っていたら「ミキちゃんですか?こんにちは」って言われて、高野フルーツバーに行った。並んで歩いていたら「かわいいね」っていきなり言われて、ちょっとうれしかった。そこでも緊張しっぱなしで、味も分からず、店を出て、映画を観に行った。その後「ご飯どうしようか?」って言われたけど、「もう帰ろうかな」って言って別れた。そのことである。
実はその人だけじゃなくて他に三人と会ったのだけど、メールとのあまりの落差に興味を失い、その人たちとはその後のメールはしていない。送られてきても無視している。これが出会い系のルールだ。出会い系は別に何回かやってるけど、こっちのことは二人には言っていない。危険を感じたことも、さほどない。
「うん、で、その人と今もメールしてるんだけど、今度また会うかもしれないんだよね。」
「マジで? ホントに危なくない人なの? え、美樹ちゃんそのひとのこと好きなの?」
「うーん、わかんないけど。そうかも。」
「美樹ちゃん彼氏と別れたばっかじゃん。いいの? そんなんで。」
なぜかマリは心配してくれている。
「ってか、美樹ちゃんって年上好きだねー。だんだん年上がっていってるよ。」
いのまりが笑って言う。
「いのまりだってそうじゃんー。」
「あたしは一応自分の中で十八から二九って決めてるよ。」
「セバタさんはいくつだっけ?」
「二四」
「二人とももっと近い人探しなよ~。」
マリは半笑いで泣きそうな顔になっている。
セバタさんとはいのまりのカレシで、葬儀屋で働いている人らしい。去年の冬に友達の紹介で遊んで、意気投合して、それから付き合っている。前にプリクラを見せてもらったら、かなりイケメンで、私が付き合ってきた人よりかっこいいし若い。
一方マリは近くにある男子高の一コ上で、今年受験生の彼氏がいる。去年の向こうの文化祭で、マリから声をかけてメアドをゲットしたそうで、その後地道に愛を育んでいた。秋ごろから急にときどき急いで一人で帰るようになったりして、マリの挙動がおかしくなったことに皐月が気づき、問いただしたところ、そのことが判明した。それからはみんなで恋バナに精を出すようになったというわけである。
私はこの間、夏休みを前にして、付き合っていた二七で法律系の予備校に通う彼氏と別れた。優しくて、年上なのにぜんぜんそんなこと感じさせなかった。よくバッティングセンターと映画に連れて行かれた。それはそれで楽しかったし、私がSで向こうがMというのもぴったりだった。別れを切り出したとき、何も問題ないじゃないかと言われた。たしかにそうだったが、私は物足りなかった。セックスのことである。
三人に、なんでフッたの? と聞かれた時は、なんか性格的に合わなくなってきたから、と答えた。その理由はさすがに言えなかった。「もっと気持ちいいセックスがしたいから」なんて言えない。そのひととのセックスは淡白なもので、はっきり言って薄すぎた。どこか幼稚だった。何回か希望を言ってみたり、いろいろ試みたけれど、変わらなかった。相手はそこまで重要なことだと思っていなかったらしい。
普通にセックスしてるときはまだましなほうだ。あるとき、お気に入りのAVを見せられ、十分興奮した後、わたしのジーンズだけを脱がし、濡れたところにいきなり挿入した。自分がイッた後、すぐに結合を解き、私を送る準備をし出したときは怒りを通り越してあきれた。私は愛と同じくらい、肉体的に求められることを欲していた。
? ? ?
今日で会うのは五回目である。ようやく家に呼ばれた。家が同じ沿線にあることが分かり、新宿に行くより案外楽だった。
駅で待っていると、スーっと近づいてきた車から細川さんが手を振っていた。
「こんにちは、遠くなかった?」
「うん、意外と近かったよ。三十分くらい。」
乗り込むなりそう言われ、なんだか気分が上向きになった。十五分くらい走った後、ファミレスに入って、パスタを食べた。ここから家まではかなり近いらしい。途中、洒落たケーキ屋によってケーキを三つ買った。
「ここのタルトはおいしいんだよー。どれがいい?」
そう言われて、急に恥ずかしくなった。目の前の店員の女性の視線を感じる。私たちのことをどう思っているのだろう。普通のカップルにみえるのだろうか。それとも友達や兄弟なんかに見えるのだろうか。私は高校生に見えていないだろうか。
「早くここを出たい」そう思ったら、急に声が小さくなって、「イチゴのとブルーベリーのがいい」となにも知らない少女が急に恥じらいを覚えたような声を出してしまった。それと細川さんが選んだキウイのムースを包んでもらい店を出た。
言われたとおり、ケーキ屋を出て、路地に入ってすぐのところにアパートはあった。
「なんかパッとしないアパートでごめんね、駅から遠いし。もう二年くらい住んでるんだけど。」
「前はどこに住んでたの?」
「神奈川」
「へぇー、仕事で引っ越したの?」
「うん、まぁそんなとこかな」
初めてその男の家に行くときは、たいてい期待と緊張が入り混じった気持ちになる。今日もそんな感じで、久々で新鮮だった。逸る気持ちが心地いい。
車から降りて、後からついていき、階段を上り裏の玄関へ出た。駐車場からはベランダしか見えなかったのだ。
中に入ると、まあまあの広さで、家具なんかも最小限そろっていて、片付いているのか、単にモノがないだけなのか、分からなかった。玄関を入って正面にキッチンがあり、その奥にユニットバスがある。左に行くと本棚やタンスやキーボードが置いてある六畳間があって、その奥にあるベランダに面した六畳間が居間になっている。前の彼氏の、モノで溢れた一間の部屋とは大違いだった。
「結構広いかも。あ、いいパソコン持ってるねー。」
「そう? 最近はDVDのデッキ買ったんだ。今度一緒になんか観よう。」
「あ、コレねー。うん」
あれやこれやと話は進み、テレビをつけてしばらくだらだらしていたら、
「そうだ、ケーキ食べようよ。フォークとコップ持ってきて? 場所分かる?」
「うーん、探してみる。」
キッチンに行って食器棚を見ると透明なガラスの内側に、きれいに食器が並べてあった。扉を開くと、端にあるコップのなかにスプーンとフォークと箸が刺さっていて、そこからフォークを二つ取り、コップも二つとって扉を閉めた。それを持って戻ると、ケーキの箱はテーブルの上に置かれたままであった。それにお皿とお茶も必要なことに気づき、
「それ開けておいて、お皿とお茶持ってくる」
と言い、コップとフォークをテーブルに置くと、
「後でいいよ」
と言われた。
瞬間、後ろから肩をつかまれカーペットの上に仰向けに倒されていた。内心「わっ、来たっ」と思ったが、すばやく口をふさがれ、思考が曖昧なままスーッと抜けていってしまった。
細川さんは見た目によらなかった。そのさわやかさとは裏腹な行動に驚きもあったが、私にとってはうれしい裏切りであった。そのキスは今までのように私の唇ごと食べてしまうような乱暴なものではなく、スキマからするりと私の中に忍び込み、暖かく甘ったるい、新しい味がした。抵抗できる女はいないように思われた。頭はボーっとしているけど、その感触が良くて、合わせてゆるゆると舌を動かしていると、股のあいだが熱を持つのがわかった。
幸せな気持ちが満ちてくる。目を閉じているのに、細川さんの手の動きがわかる。私の茶色いカットソーのボタンをすべて外し、お腹に男性特有のゴツリとした手が触れ、背中に回される。ブラがゆるくなり、すっと上半身が持ちあがったと思うと、服もブラも首からサッと脱げた。こちらが気を回さなくてもスムーズに進む、その動きに「すごい、この人かなり慣れてるんじゃないか」と思った。
唇が離れ、「やだ、もっと」と思うと同時に、胸にぬくもりが降りてきた。その瞬間ちょっとびっくりして、声が出てしまう。
そっと目を開けると、細川さんは私の上にしっかりとまたがり直し、自分も裸になっていた。その熱を帯びているしっかりとしたからだが下半身ぴったりと合わさり、口元から私の大きく浅黒い乳首が出入りしている。男の手におとなしく収まっている乳房や時々垣間見える小さくとがった乳首はまるで自分のものではないように思われるのに、その感覚によって確かに自分であることが嬉しくて、悦びが押し寄せてくる。
見下ろすとあるその光景が今までになかったユートピアだった。高まるとともに息が上がり胸が大きくなる。その茶色い頭を撫でてみた。すると首筋で、猫撫で声で呼ばれ、どうしようもなく意識が拡散していく。
どれほど時間が経ったろうか。いや、一分も経っていないのかも知れない。私の胸の二点間を男は行き来し、その舌、唇、掌があらゆる方法で私の感覚を肥大化させた。超自我が完全に押しやられた頃、男は私のジーンズに手を伸ばす。ファスナーが開かれボタンが外される。太ももにスッと風が抜け、こもっていた熱が飛ぶ。完全に自在となった白い足が現われ、私は改めて、ぐしょぐしょになっているだろうショーツの内側を思う。
瞬間、細川さんの灰色のボクサーパンツから窮屈そうにあるものを見つけ、パンツをずらし、裂け目から出してあげた。先が濡れている。それでもまだ不自然だったが、「まだ触っちゃだめ」と言われ、手をひっこめる。
細川さんは大きく後退し、私の股間に顔を近づけた。それだけで局部が反応し、一層膨張してくる。ショーツは疾うに染み出したもので濡れ、その上に指が置かれた。滑らかに動くその指は私のものではないのに、十分に開花した花びらを感じ取ることができた。何かを確かめた後、そのままショーツのふちに手が伸び、裏返しに脱がされる。いつもはべっとりと剥がれるのを思うと恥ずかしくなるのに、今はもうどうでもよかった。「早く入れて欲しい」そう言いたい気持ちが、花びらを弄ぶ舌を感じた途端、吹っ飛んだ。
男が女の股間に顔をうずめる光景はすごく良かった。アンダーヘア越しに見る私の顔とはどんな風なのだろうか。その下部から、全身に、指先まで広がる見えない光る細い糸は確実に快感を伝え、既存の受容力を強化する。力の入る太ももが優しくさすられ、脱力する。力むのは、私の身体に蓄積される力が出口を探している証拠だ。早く入り口を開けて欲しい。再びそう願いながら、力み、脱力を繰り返す。
そうこうしているうちに、男のものは先ほどよりも緊張してきたらしく、自分で確認している。いくらでも舐めてあげたいと思った。しかし現実は違った。男は引き出しからコンドームを取り出し、すばやく装着した。両足がこの上なく広げられ、今私は最大の弱みを握られていると思う。でもそれが好いんだ。亀頭を当てられた瞬間、あまりの期待に押しつぶされ、あっと声をあげる。その向こうに何が待っているのか、早く知りたかった。
侵入し、私は動物的な動きで奥に誘う。前後し、揺さぶられる度に、私は自身の領域を侵され、この身体、この快感を共有されることの悦びを感じる。その動きは、女への優しさから男の欲情へ変化し、次第に、応えてあげたいと強く願う。私をこんなにも求めてくれたことが愛しくて、声を漏らし、もはや私の届かない次元で動き続ける男を目の前にし、「もっとくっついて、もっと奥まで」と動き、縛りつける。
うっという呻きと同時に甘くしおれている細川さんがいた。私は私で、もう少しで出口を見つけるところだったのに、幸せな夢から突然現実に引き戻されたような寂しさに襲われた。やっぱり一人だと思った。
体を離したら、どうしようもなく泣きたくなって、トイレに行った。扉を閉めて、バスタブの縁に腰掛けて、自分で触っていたら、扉が開いて、細川さんが現れた。
「恥ずかしい」
そう思った瞬間、細川さんは何も言わず、急に近寄りひざをついて、私の半開きの股間に顔を近づけて、舐め始めた。
驚いた。この状況に対して。さっきとは違う、ゆっくりで、ちょっとずつすくい取るように舐めるのを感じて、私は力を抜き、目を閉じる。その手が私の濡れた手を優しく握り、太ももから腰の辺りまでをゆっくりとさすりながら、ずっと舐めてくれた。
「なんでこの人は出会い系なんてやってるんだろう」
そう思った。常習犯なのだろうか。この人も、寂しく思うことがあるんだろうか。
優しいと思った。少なくともその行為は優しくて、うれしかった。ちゃんと見てくれていることが。向き合ってくれていることが。
いつの間にかその舌は動きを変え、私の局部も再び熱を持っていた。早く強く動かしているわけじゃないのに、気持ちいい。快感を求めて私が動く必要はもうなかった。腰掛けたまま、私の全身に新しくて甘い刺激が広がる。考えるのをやめた。そのふさふさとした頭に手をやり、舐められ、吸われたりしているかすかな音を聞くうちに、身体が硬直し、細川さんの両手が背中や胸を優しく撫でるのを感じながら、息苦しくなって、暗闇の中で、私はイッた。
次の瞬間、どんな声を上げたか思い出せなかった。息をついて、細川さんの大きな白い身体に抱かれながら、そこがびしょびしょになって、どくどくと脈打っているのを感じた。
? ? ?
「今日さー、あたしの友達に貴島美樹って子いるじゃん? 美樹ちゃんだよー。前にプリクラ見せたじゃん?・・・これ、この子。この子が出会い系で夏休み中に知り合った人とさ、それからちょくちょく会ってるらしいのね。どこまで行ってるかは知らないけど。でー、それって付き合ってるの? って聞いたら、『わかんない』とか言って、よくわかんないんだよねー。
っていうか出会い系自体怪しくない? 絶対ヤバいと思うんだ。絶対エッチ目当てだよね? なんか知らないうちに犯罪に巻き込まれてそうじゃない? ねーどう思う? しかもその子この前彼氏フッたばっかで、出会い系の人三一だよ?それ聞いたとき超ビックリしてー。前の彼氏も二七だし。ねー、聞いてる?」
「いんじゃん別に。好みは人それぞれじゃん。出会い系やってるヤツがみんな悪いってわけじゃないし」
「・・・ねー、なんか今日元気なくない?なんでそおゆーことゆーの?」
「・・・は? こっちはフツーだよ」
「・・・久しぶりに会ったのにさー・・・、どっか外でデートしたかった。夕方でバイバイなんでしょ?」
「うん、母親帰ってくるし、オレ予備校あるから。」
「・・・ねー、マリのこと好き?」
「・・・うん。好きだから、家呼んでんじゃん」
「だよね」
修吾のお父さんは大阪に単身赴任で、この家にはお母さんと二人で住んでる。兄弟はいない。修吾は今年大学受験だから夏ぐらいからぜんぜん会えなくなった。別にそれはしょうがないんだけど、会えないせいだけじゃなくて、最近電話しても出ないし、出てもケンカっぽくなって終わる。別に浮気を疑ってるわけじゃない。たまに優しいときがあって、大好きな修吾になる。だけどメールもいっつもあたしから送るばっかで、レスがぜんぜん来ない。授業中もケータイ握り締めて待ってるあたしのことを修吾は知らない。でも言ったら自分が空しくなるだけだから言わない。あたしが負けてることは分かってるけど、修吾に「会いたい」とか、言って欲しい。テーブルの下にあるエッチなDVDを見つけて、言った。
「ねえ、・・・エッチしたくないの?しようよ。」
「・・・今そんな気分じゃねー」
安っぽい考えだけど、一回エッチしちゃえば、もっと会ってくれるかもしれない。もう付き合って一年も経ってるし、ない方がおかしい。受験だから禁欲的になってるのだろうか? あたしだってこんなこと自分から言いたくない。エッチはしたことないからエラそうなこと言えないけど。でもオナニーならたまにするし、AVもお兄ちゃんのヤツこっそり観てる。部屋にいるんだから押し倒したっていいのに。ホモってこともあるまいし。
「なんで? マリとはしたくないの?」
「・・・・・・しょうがねぇなー」
キタ!なぜか内心躍り上がっている自分にちょっと呆れたが、うれしさにかき消された。
「・・・来いよ」
そう言われ立ち上がり、修吾がいるベッドに座った。あたり前のように仰向けに倒された。軽くキスをした後、ワイシャツのボタンが外され、ピンクのブラが顕わになる。「今日コレ着けてきて正解」と思いながら目を閉じる。初めてなのに、なぜかそんな気がしない。ブラをちゃんと外さないまま、修吾はカップをずらし、胸をわしづかみにした。ちょっと痛かったけど、胸に吸い付いている修吾を見たら、かわいくて愛しくなった。
乳首を吸われ、揉まれて、下が潤むのが分かる。舌で乳首をなぶられて、すごく良くて、喘いだ。制服のスカートの内側に手が伸びる。きっともうショーツに染みてると思った。脱がさないまま、手を脇から滑り込ませ、厚い襞に触れた。もっと触って欲しくて腰を動かす。
修吾はスカートをめくってショーツを脱がし、頭を入れた。ひざをかっくりと折られ、あいだに顔をうずめ、よくあるポーズになった。その手はあたしの胸に伸び、乳首をいじって、胸がはちきれそうになっている。あそこに熱い息がかかる。今にも噴出しそうで、緊張していた。その舌が触れた途端、我慢できなくなって、声を上げた。いつか漫喫で隣の小部屋から聞こえてきた女の声と同じだと思った。自分でやるより気持ちよくて、すぐにイッちゃうんじゃないかと思う。
「しゅうごぉー」と小さく呼んでみた。すると突然修吾は動くのをやめ、身体を起こした。「どうしたの?」と聞くと、いきなり立ち上がり、自分のズボンのベルトを緩め、脱ぎ始めた。「あっもう入れるんだ」と思って見ていた。修吾はベッドから降りて、パンツの中を見ている。こっちに背を向けているから見えない。
振り向いて「こっち来いよ」と言われた。あたしは相当みだらな格好になっていたから、とりあえずワイシャツを脱いで、ブラを直して、スカートを直してベッドから降りた。ノーパン×ミニスカートはスースーして、我ながらエロいと思った。コレで電車とか乗ったらどうなっちゃうんだろう。ヤバい、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
いきなり手をつかまれて修吾のアレに当てられた。私の手に修吾の手が重なり、動かされた。しごいている。あたしはなされるがままに、修吾の肩越しに茶色い壁を見つめていた。
「お前、フェラしたことある?」
修吾がぼそっと言った。
「ないけど・・・」
と言わざるを得なかった。
「ここ舐めろ」
そう言われて、とりあえずひざをつく。目の前に半立ちのアレがあった。AVで観た通りにやってみようと思い、両手で握った。先が濡れてるけど、思い切ってくわえた。しょっぱい味が口いっぱいに広がり、出したくなったけど、気合いで飲み込んだ。入れたり出したり、舐めたり吸ったり、思いつくことをやってみた。
ピストンしてたら、急に
「もっと吸って」
と言われ、出すときに吸うようにした。付け根が引っ張られてる。痛くないのだろうか。「んーもっと、音が出るくらいに」
もっと、吸ったら、いやらしい音が出た。ジューッキュッ、ジューッキュッ
「痛い、噛むなよ」
そう言われ、無意識のうちに歯があたっていたことに気づいた。でも修吾のアレが結構太くて、くわえると、吸うときに苦しくて、歯があたるのがうまく避けられなかった。しょうがなくジューッキュッ、ジューッキュッをずっとしていたら、手をつかまれタマを触るように促され、そうした。
「舌使って」
と言われ、舌を強く当てて吸った。どうやら圧迫されるのがいいらしい。うまく出来てるときは時折修吾の下腹部に力が入っているのがわかった。次第に疲れてきて、舌の感覚がなくなってきた。でもあたしは続けた。修吾を気持ちよくしてあげたい。その後、何回も歯が当たってしまって、いろいろ指示されたけど、うまく出来てないらしく、アレのハリもなくなってきたのがわかった。
「もういいよ」
突然そう言われた。その声が、ちょっと軽蔑してるような声だった。結局あたしは修吾をイカせることができなかったとわかった。口を離した後、修吾の顔が見れなかった。悲しかった。空気が冷めて、修吾はもう興味を失ったようだった。たぶん怒ってるんじゃない、修吾だって辛いんだ、きっと。修吾は目の前で服を着ていた。あたしはそのあいだ身動きできずに下を向いていた。
「そろそろ帰る?」
そう言われて、しょうがなくショーツとワイシャツを拾って着た。何も考えられなくなっていた。髪の毛を手で梳かしながら、ちょっと修吾の顔を見て、じゃねまたねと言って部屋を出た。それから、玄関で靴をつっかけて、扉を静かに閉めた。それから走った。駅まで走って、気がついて、入る前に、空を見上げた。
「もう夕方じゃん」
今日修吾の家に向かっていた時が、もう遠い昔のことに思えた。会う前にここにいたときは、こんなことがあるなんて思いもしなかった。すごく楽しい気分だったのに。いつもデートの後は即行でメールするのに、今日はなんて送ればいいのかわからなかった。「ゴメンネ」だろうか、「今日は無理言ってゴメンネ」だろうか。どんな言葉も意味を持たない気がした。あたしはたぶん悪くないのに、すごく悪いことをした後のような引け目を感じていた。
「今修吾は何してるんだろう」
何も思いつかなかった。あのDVDを観てるのかもしれない。それでもいい、あたしが悪いんだから。今度謝って、またしたい。そういえば今アンアンでセックス特集してた気がする。買って帰ろう。そう思ったら、ちょっと足が軽くなった。
? ? ?
