▼コラボレーション

廿楽順治のように

廿楽順治のように






【解題】
廿楽順治さんの詩は一言でいえば多様体だ。
べらんめえ、売り言葉、殺し文句、殺気、グロテスク、
時代劇の科白、おやじの繰言など多様なものが
行(の塊)が加算されるごとに
角度を変えて玉手箱のように出現してくる。
だから多様体は噴出体でもある。

改行の運動神経にも独特のものがあって
「音数の大体の一致」による音楽性ではなく
「不一致」による脳天落としのほうに意趣が傾いて
それでゴツゴツとしたリズムができ、
そのなかに強調や意趣替え、
景色替えといった運動がズルズル起こる。
しかもフィニッシュが鮮やかだ。

新作詩集『化車』所載の長篇詩などは
そうした運動に乗じて速読してゆくと
読む眼が「切れて」血が噴きでるような悦びもある。

「茶化しの不真面目」
「ひらがなによる概念語の脱権威化」
「現代(思想)性批判」などによって
裏の文脈ではケンカイな文明論が一貫して脈打ってもいて、
それでも過ぎ去った時代への郷愁、
地名と場所への愛着も加味されて
全体では反転的に良質な抒情詩が形成される。
本人、家族、かつての隣人、亡霊もふくめ
詩篇に「身体」がみちるからたぶんそうなるのだ。

最近の、版面下から行が石筍状に上に伸びてゆく詩篇、
あるいは反語的内心をしめしつつ
詩篇自体をメタ的に距離化する丸括弧の使用、
ひらがなの多用や不統一な口語体の混入など
廿楽詩には一見して廿楽調と呼ばれる特徴もあるのだが、
これらを真似しても(最近はそういう詩作者も出てきた)、
じつは「廿楽調」が実現されない。
これはぼく自身の実感でもある。

まずはことばのひびきの吟味によって
ことばの隣接関係にするどいスパークを起こさせ、
改行そのものを苛烈に運動神経化し、
さらにはそうして生じた「断絶だらけの世界」を緩和する
「全体の抒情」も必要となるのではないか。
いたずらに語彙や語法のみから近づこうとすると
流血をみる怖い詩作者だ、ということだ。

前回、「松岡政則のように」で「まねび」の怖さ、
原作者への畏れをまなんだ受講生たちは
今回も表面的な模倣を見事に避けた。
提出者がいつもよりすくなかったのは、
結局「廿楽順治のように」を実現する困難を
身をもって体験し、詩作を座礁させたためだとおもわれる。

廿楽詩はとうぜん男性性のしるしももつため、
とりわけ女子にはとくにその語調の継承が
むずかしかったのではないだろうか。

それでも今回も難関を乗り越えた受講生が多数いた。
どうかしている、とおもう(笑)。
あまりつかいたくないことばだが、
「天才」が受講生に混在して
全体レベルが引き上げられているのではないだろうか。

「模倣」の浅ましさからきれいに離れ
廿楽詩の脇に涼しげに自らの詩篇を置いてしまう
「托卵」の達人のような作者が複数いるのだ。
う~ん、スリリングな事態になってきた。

今回も成績発表を。
まず次点は以下四篇。
・大永 歩「東海大学前入口」
・中川達矢「大宮公園」
・森川光樹「七月」
・齋田尚佳「部室」
・中村郁子「はこね観光もどき」

大永さんの作は、小田急線東海大学前駅で起こっただろう
不吉な椿事が「ごはんつぶ」で脱臼され、
結局、何が起こったか不明な点に迷宮的妙味がある。
ラスト、「もんをぬける」が素晴らしい。
「もん」は「門」であり「悶」かもしれない。

中川くんの作は、中山道からたどられる
「土地への執着」が廿楽的だが、
そこにキリスト者らしい彼の
書割宗教批判もみられる。
それらはわかりやすい了解性があって
廿楽詩とはちがう面もじつはあるのだが、
ラスト五行の、静かかつ暴力的な余韻が見事だ。

森川くんの作もこれまた余韻が秀逸。
がっこうのがらんどう。
七月の到来が記憶も参照され
スケッチされているはずだが、
丸括弧に入った一行が空間的空洞を満たしていて
そこに見事な夏の把握がある。

齋田さんの作は、「部室」を描写したもの。
部室でおこったこと、部室の会話の質が
齋田さんには珍しい廿楽調でつづられ、
魅惑的な曖昧化が生じている。
最後の一行がとてもいい。

中村さんの作は箱根旅行の体験が元になっているが
女性ながら見事に廿楽調を導入し
箱根の空間を完璧に脱臼している。
彼女がこんな詩風をしめせるなんて吃驚した。
「にんげん」の行列の卑小を射抜くような
彼女の立ち位置が透徹している。

最高点は以下二篇。
・鎌田菜穂「うつわ」
・山崎 翔「おとなしばし」

鎌田さんの作では理路が暴力的に奪われ
それでも読者を愛着に導く「穴」がある。
身体部位である「口の消失」と
アルコールによる酩酊が拮抗しつつ
廿楽詩に匹敵する殺し文句が多数ちりばめられ
何度も味読してしまった。
本人に訊くと「陶芸」体験を詩にしたという。
なるほどそう構えてみると、そう読める。
ともあれ女性がこんな詩篇をものしたことで
廿楽さん自身バランスを逸してしまうかもしれない。
これは廿楽さんに向けられた
「やわらかい強圧」だとおもう。

山崎くんはとうとうスランプから脱出した。
電車に乗り、王子にたどり着いて(アジサイが綺麗な駅だ)、
気持が埼玉方面を遠望する。
その一瞬に去来したさまざまを
ざるで掬いあげたような詩篇で
最初は叙景のやさしさではじまったような詩篇が
次々に「異調」を帯びてきて、
最終的には見事な七行の結末にいたる。
廿楽さんの詩集に入っていても違和感のない作。
しかも廿楽調からの脱却も同時実現している。
これには廿楽さんも嫌がるんじゃないだろうか(笑)。
 
いつもどおり冒頭に廿楽さんの作例を置いた。
(阿部)





廿楽順治のように

大永 歩/川名佳比古/鎌田菜穂/中川達矢/森川光樹/森田 直/
齋田尚佳/渡邊彩恵/中村郁子/山崎 翔/阿部嘉昭




【みじかい】
廿楽順治


おどろくほどみじかいひとが
まがって
ぎらぎらとしていた
かかとから首まで
どうしてあんなにみじかいのか
(死んでいるのである)
馬をちゃんと食べてこなかったからだ
考えていることもたりない
おどろいた
きもちが青いままとどいていかない
あぶら
がながれてしまっていた
手がすべって
みじかいひとがつかめないのだ
東と西のあいだも
すこしみじかくなっていた
ひとがばらばらになってもふしぎではないが
そう
はならない
そんなにあわてて政治がひかるかよ
みじかいおじさんが
急にぶんれつしてふえた
(ああ)
たべた馬のあぶらがおもいだせねえ


(廿楽順治『化車』〔11〕より)









【東海大学前駅入口】
大永 歩


よつかどのうちのふたつは
おとことおんなでごみごみしたところへむかっていて
あとのふたつは
おとことおんなが
はなれていくばしょにつながる
ごちゅういください
いちぶひろくあいております
おとしあな
にとらわれたばあさんの
赤で
あしどめ
でんぷんのりのまきちらされたふみきりで
はいせんせい
ごはんはたんすいかぶつです
あおみどろのおどり
みずにはおもさがあって
したへしたへとおちていくが
めんどうくさいととろとろしているやつもいる
(どうせこながかかったら)
(だんごになるのだし)
だんごろむしとふんころがしのおどり
めぐりめぐって
もんをぬける









【とうきょう】
川名佳比古


とうきょうには
あらかわをこえていく
とてもとおかったはずだが
いまはなんてことのないとうきょうだ
(かたみち八二〇円)
かおをなくしてしまったひとびとのくつおとが
しみこまないように
しっかりとふたをする
(ぼくたちの失敗)
りんじんをうしなったまちの
あふれるひとのなかで
よくもまあいきができたもんだ
しにんのはくいきなど
ぬるいビールのかわりにもならない
(おまえだって)
あらかわをこえてうちにかえる









【うつわ】
鎌田菜穂


はやくまわりすぎて
ただの
まる
おやゆびでくちをあけます
わたしのくちはいったい
どこへいったか
(いきをのみすぎてしずんだ)
ペダルをふむと
地球よりずいぶん
ちいさくまわる
ひる
まもろうとしすぎると
ひとしさがずれてしまうこともあった
のぼる
まるのふかい
まっくろにちらばる
わたしを愛してくれ
(さいごには崩してくれ)
わらったあとはどうも
くちのはしがうまくきまらないな
泥水のゆるむ
(ああ)
あしたも
この小屋では土を殺しまくるのだ
あまりにくるしい
まるの上下に
いきをのむ
あのおやゆびの
墜落
はやくまわりすぎて
酒の味がわからなくなったよ









【大宮公園】
中川達矢


なかやまどうをはしれば
とりいをくぐって
あやしいみずうみにたどりつく
集団がよりついてきて
その数をふやそうとすると
どうしても対立がおきてしまい
ばあちゃんがうるさいほど
おなじ話をしてくる
(あんたがしゅうきょうだ)
しんとうの近くで
よくもそうやって胸をはって
御殿をたてられるね
それでも
競輪場からでてくるひとがたえなくて
てんから
おかねがまいおりる
(おしょうがつがもうけどき)
じいちゃんは
木にぶらさがるものを見つけては
けいさつに電話をしていた
あそこには
なにかがいる









【七月】
森川光樹


(あつくて)
さくらがさくら
じゃないみたい
まだまだでる
とまだでない
地球のまぐま
がばくはつして
にせんじゅうにねんに
みんなしぬ
ほんとうなの?
(答えは蝉の合奏だけだった)
カナカナカナ
はゆうぐれ
まだまだかい?
ドアのむこうの
スプートニクはきっと
だれもいない
ちきゅうにかえってくる
というきみ
とぼくと花子さんしか
学校にいない









【おれはせんたくした】
森田 直


あんれぇ
せなかがいたいや
って夜中
めがさめた
背骨いっこいっこの
あいだの
なんこつってゆんですか?
あれがきっと
いたいんです
なんこつは終始つぶされてる
そんなこと
生まれつき 決められて
(すりきれて)
そんなうんめいをおもったこと
きみにはないんでしょ?
とか
(ばかばか)
ほうれ、月がきれいに空いてる
ぼーりんぐがきょうはうまくいったのだね
月モグラくん ご苦労さん
そんなこと
コインランドリーで
なんこつがいたくって眠れないから
20分
200円でかったのだ
おれはそとに
ねばった
となりのせんとうから
ほかほかした
おっさん おばはん びんぼうこども
ご苦労さん おつかれさん
(ぺっ)
とぼけたかおして
みんななんこつを
なおしに
きやがったんだ









【部室】
齋田尚佳


ひとつ箱のしたでざくざくと髪をきざむ
ちょいととおるよ
なにがいるかわからない絨毯のうえで
義務のようにおさめてく
だれだれのなになに
(あらまぁ と やぁね をかさねてく)
古典にはかなうまい
溝にうまったほこりにまぎれて
そこでこくはくがあったようなのだ
ぎゅうぎゅうにつめられたべんとうばこの
しろくひえたごはんはあじけない
電子音だけがきれいだった
きづけば通行人はみむきもせず
むしとりあみはいらないはずで
(そおら見てみろ)
壊したそと と 三分すすんだとけいの
とおせんぼ
ガムテープがきんちょうしながら
ときがくるのをまっている
隙間のせかいにたっているだけ









【いつかのさけ】
渡邊彩恵


ながいながいテーブルをかこんで
くちをうるおわせる
ようきに
あかい顔になっていく
おやじも祖父も
くろいネクタイをゆるませて
わたしも
ちょいとと言いながら飲んでいく
おんなたちは
(姉の視線もだな)
とがらせながらも
うごきつづけ
おさない子どもを守っていた
からみ好きなおやじに肩をくまれ
手のはやいおじさんは
(わたしから見てもいやなもんだな)
いとこに目をつけた
しかたなしにくちをつけた
その子は
渋い顔をしたかと思えば
ほかの子供たちといっしょに
どこかに
かけていった
(あはははははは)









【雑司ヶ谷】
中村郁子


ほそみちだ
ぬれたみどりにくらいみち
(ようこそあなたさま)
(石や木しかございませぬが)
いけば雨がふっている
やぶ蚊に注意
してください
(羽二重団子)
(たべたいな)
帝都のはずれは
いなか
(でもいい)
宣教師の亡霊と
かつて子どもを食らった神が
近くにいて
とおくの
ビルは
しんきろう
(かなしきかな副都心線)
お茶を飲んでいたら
蚊にさされた
もがくにももがけないからもがかない









【はこね観光もどき】
中村郁子


ほねのアーチをくぐってすすむ
(なぜ下を歩く)
じぶんが展示物
なんて
なんとかサウルスは思わなかった
うごきそうだ
(かえしてくれよ)
いえのちかくではっけんされた
化石の貝
(ふるさとがすき)
げんじつはいやだなぁ
参加すべき
べきって
(しろってことだよ)
じゃあ
(欠席決定)
さようなら
(遊覧船は欠航だよ)
杉の並木フィールドの展示物はにんげんさ









【おとなしばし】
山崎 翔


安全ではありません
といいたげに
あじさいもさいていて
さいたまのほうはまっくろです
ぼんやり
とでも密度のなかをはしらせてみれば
どこもかしこも
くうきはひどく軋んで
みみずばれ
だらけじゃないか
しめったうめきごえばかりがひびいている
(そういえば)
おおかたむこうのそらはもう
あおじろかったり
くろかったりで
それはそれはいたいたしく
ちぎれはじめてるころだろうねえ
(今年はまだうしがえるをみかけない)
おうじえき
立ち入り禁止のひとつふたつこちらがわ は
ゆれている
くわれている
そのおくのほうに
生きて
いない
が みえかくれしている
そうしていまにも裂けてしまいそうなひふたちを
書店であるとか
ラブホテルであるとか
くすんだ都電荒川線であるとか
そういう
ぶんかとよばれるもろもろが
せっせとぬいあわせているんですね
そうじゃねえ
穴だらけなのはこっちのほうだよ
と まあしぶとく
きのうのよるに
いくつも にぶく刺された手足で
かわいげもなく
石畳をすべらせている
(わざわざひっかくってのもどうなんだろうねえ)
そんなむきだしと
むきだしとが
いくつも悲鳴をあげていて
そうだよ

というものは
こうもむざんな衝突事故にはじまるものだよ









【柔道】
阿部嘉昭


こんこんとわきでる自分の癖を
のみほし飲み干して
ずっぺり抱きながしている
きみの毛髪が皺にみえて
いとしいので
あたまをはずし
そのすがたにも逆落としをかける
ひねられる蛇口みたいな耳を
どこまで風にたて
自分のくんづほぐれつをきいてるんだ
盲流せえ
極意は
きべら
妖なるものは
せかいの半切で
しろいつぶを
よりわけ
桶をみえるものにする
コメとたたかうみちのりは
なみいるきみをおにぎりにする
フカフカの湯気でもあろう
あるものを選びつくす
きべら戦法で勝つ



 



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