▼コラボレーション
三歌仙・興行報告
三歌仙・興行報告
【解題】
立教08年度後期演習のひとつが「連詩連句演習」だった。
連詩については先にこの「コラボレーション欄」にアップしたが、
この場所では授業内で巻き、完成したA班B班C班の歌仙を
それぞれ下にしめしておく。
ちなみに演習の初めに
打越に触れず、遠輪廻も嫌い、
物付から匂付まである連句の「付け」の方法をしめした。
むろん見立てとは何かについても。
それとプリントも配布し、
決め事の多い連句の心得もさらにつたえた。
初折表裏、名残の折表裏、月の座・花の座、
季節原則(春秋は三句以上、夏冬は一句捨てでも可、雑を挟んでの同季禁止)等々。
そのうえでメーリングリストでのやりとりを円滑化させるため
僕(阿部)が宗匠になることもなく
祝言の挙句(36句)が成立したところで
季節の矛盾、付けの悪さ、句眼のなさの目立つ句をピックアップし、
教室での直しをみな(つまりコンペ方式)でおこなうことにした。
そのことで連句の技術を完全に教示できるともおもったためだ。
たとえばあいだの三句が駄目だ、という判断の場合には、
OKの四句めにつなぐためパズル的思考をしいられることにもなったが、
みなが結構、愉しんで直しにも参じた。
成立句と元句のちがいは多くは季語の設定の有無だが、
このちがいから連句の方法が如実に現れるとおもう。
なので、元句はそのまましめした(つまり「羞恥プレイ」ではない)。
個別の歌仙については、それぞれ別に簡単な評言を下につけておく。
(阿部)
三歌仙・興行報告
立教08年後期「連詩連句演習」参加者
●A班「歌仙『虫の夜』の巻」
【A班解題】
123456、214365(以下同)・・の回し。
井澤君の掟破りの月句が発句となってしまい、
五句目「月の座」では「有明」により、
月の語を控えてもらった。
出だしは秋句が連続していないがこれには眼をつむった。
季語がなくても、季節の気分で一応付いている、と判断したため。
それでも名残の折立て(19句め)くらいから
いい調子が出てきた。
「私」句が多かったものが
僕(阿部)の直しもあり、「私」に限定されない多岐の人事がからみ、
付けにも洒脱さがともなわれてきた。
名残の折裏で四つ連続する春句などはすごくいい。
ふんわりと虫の夜を這ふ白い月 井澤丈敏1
浮かぶ頬頬風に浮き立つ 松岡美希2
枡酒に揺れる金色そつとなめ 佐々木綾3
わが身の雲もはらへよ野分 都野有美4
ひとすぢの有明の灯に誘はれて 中村ふみ代(月の座)5
からだ透きだす石のベランダ 大中真慶6
明るみにわたしのかたち置き忘れ 松岡美希7
青春といふ汗のトンネル 井澤丈敏(望月直し)8
元句:冷えた水鏡鳴き出すは影
思ひ出す古い口ぐせ駆け抜けて 都野有美9
天高く飛ぶ声と流るる 佐々木綾10
あの女木犀のもと煙草吸ひ 大中真慶11
黒髪長くストールを巻く 中村ふみ代12(中村直し)
元句:こぼれる花のなきがらを待つ
風吹きて空しく流る時の片 井澤丈敏13
枯野に擦られ月や羞しむ 松岡美希(阿部直し)(月の座)14
元句:つきを呼び止めしばしとどめむ
走り去る雲を遠くに眺めやり 佐々木綾15
しまひを待つて突つ立つてゐる 都野有美16
振り向けば霞の花も賑やかに 中村ふみ代(中村改作)(花の座)17
元句:振り向けば霞の空も賑やかに
寄る波の音に蝌蚪休らひぬ 大中真慶(阿部直し)18
元句:串焼き噛みて抜きとる君と
わらわらに歩く一団蜂の山 松岡美希19
春の旅人転がり落ちて 井澤丈敏20
針穴をとほしてたぐる糸の先 都野有美21
夜釣りに興ず坊主の籠に 佐々木綾22
梵鐘にゑがく尼僧のおもかげや 大中真慶(阿部直し)23
元句:市場やら近所かまわずベル鳴らし
性懲りもなく茄子を馳走す 中村ふみ代(阿部直し)24
元句:贈り物には年甲斐もなく
忘却は白風うらしま玉手箱 井澤丈敏(阿部直し)25
元句:我先と舞を踊りて玉手箱
など指の間ゆ紅葉散るらん 松岡美希(阿部直し)26
元句:解く指先に紅葉散る
幼子の頬にも似たるあつさみて 佐々木綾27
人肌の湯に蹠を洗ふ 都野有美(阿部直し)28
元句:血のごと流るる小川のゆくえ
祖父母泣く二年経つての初歩き 中村ふみ代(阿部直し)29
元句:ぬかるみに取られた足の青ざめて
笑ふ玉兎も重ね着をして 大中真慶30(阿部直し)(月の座)
元句:朧月すえにぎる弾丸
知らぬ間にチョコボール溶けピーナッツ 松岡美希31
双子二回の春日珍らか 井澤丈敏32(阿部直し)
元句:無念を横に鼻歌聞こゆ
長閑にて並び語りて筆運ぶ 都野有美33(阿部直し)
元句:ギターたてコード起こすも筆の音
霞む鈴音に覚ゆあかつき 佐々木綾34(阿部直し)
元句:滑りて覚ゆ春のあかつき
猫目には花白くして大輪に 大中真慶35(阿部直し)(花の座)
元句:醒めて園かくしの花に爪染めて
さへづる鳥は姿見えねど 中村ふみ代36(阿部直し)
元句:さえずる歌も陽気な道中
●B班「歌仙『開く窓』の巻」
【B班解題】
回しの順はA班と同じ。
こちらは最終二回の授業で直す、という時間的余裕があった。
なので直しもできるかぎり本人にしてもらった。
それらこれらで季語上の掟外しが一切ないというアドバンテージもある。
望月君の名吟「バスジャック」(19)を皮切りに
直し句の連続するそれ以後は、
三村さんの破礼にちかい濃艶句「秋蚊帳」など目覚しい展開で
これは大手を振って、万人に披露できるものとなっただろう。
「膝小僧」→「鮭のレース」などの呼応も素晴しく、
連句で最も大事な、最後の花句と挙句の連関も素晴しかった。
詩人・三角みづ紀がゲスト参加している。
彼女の句はさすがに現代詩っぽく、時に意味不明でもあるのだが、
韻きの良さが抜群で、やっぱり個性だなあ、と感嘆した。
肌寒の寄り合ふ声の開く窓に 三村京子1
微光を分けて小鳥の泳ぐ 望月裕二郎2(望月直し)
元句:雲間の微光ガラスを暖む
満月の形をケーキになぞらへて 春木晶子3(月の座)
小宇宙(コスモ)のごとく一呑みにせむ 輿水英里4
新海苔を齧りて口も海の香に 水野 桂5(阿部直し)
元句:空部屋が凛となる日の陽だまりに
漂ふことすら絹糸の熱 三角みづ紀6
「冷奴始めました」を見つめゐて 望月裕二郎7
向きあふ眸の酒に滲むや 三村京子8
さきはひは盃の底きんの砂 輿水英里9(阿部直し)
元句:繋いだ手温い夜風に汗ばみて
考へもせず洗ひ流して 春木晶子10(春木直し)
元句:でもまだ足りぬと握りなおして
連綿と行き交ふひとと芝焼きぬ 三角みづ紀11(三角直し)
元句:後悔の航海故の波の距離
薄氷渡る乱反射の黒 水野 桂12(水野直し)
元句:水面に描く乱反射の黒
屋根低く燕かすめし眼くらみて 三村京子13(阿部直し)
元句:雛菊や燕かすめし眼くらみて
朧月とふ輪郭かなし 望月裕二郎14(月の座)
三椏も雌蘂隠して眠りけり 春木晶子15(阿部直し)
元句:朝顔も花びら萎めて眠りけり
街の足音固き芽ひらく 輿水英里16(松岡直し)
元句:明日にならば笑顔戻らむ
見上ぐれば花の向うの天白し 水野 桂17(花の座)(阿部直し)
元句:ソーダ水越しに開ける箱庭
見果てぬ春蝉鳴き足らず鳴く 三角みづ紀18(三角直し)
元句:あかるみの天わけながら咲く
バスジャックせらるることのなき市バス 望月裕二郎19
少年ひとりが枯野へ下りて 三村京子20(阿部直し)
元句:少年が聞くNovember Steps
密やかな二輪の白菊つみにけり 輿水英里21(輿水直し)
元句:天高くぽかぽか陽気に油断して
秋蚊帳ゆれて睦める夫婦 春木晶子22(三村直し)
元句:時雨を吸ひて布団重たし
鷺なども吸ひこまれゆく鰯雲 三角みづ紀23(三角直し)
元句:湿り気に泣くおとうとの骨の音に
西の彼方は浄土か滝か 水野 桂24(阿部直し)
元句:共鳴はせぬと母の沈黙
寒水に泥鰌掴んで痺れるを 三村京子25(阿部直し)
元句:縁台に蜜柑を突つく朝雀
浪速の巷に皹薬買ふ 望月裕二郎26(阿部直し)
元句:ドン・キホーテにて皹薬買ふ
つるすべになりて落つるは白磁の花瓶 春木晶子27
欠片を他所にあやめ咲きたり 輿水英里28
冴え返る水の粒子が虹をかけ 水野 桂29
雲間をしづかに月渡りけり 三角みづ紀30(月の座)
元句:霞月すら明滅さす
傷俟てる運動会の膝小僧 望月裕二郎31
水を斬りゆく鮭のレースも 三村京子32
塩辛し門出にかはす酒の味 輿水英里33
元句:一面の豆を踏み踏み春立つ日
鶯のいろ声と見分けず 春木晶子34(阿部直し)
元句:鶯告げし新たかな出会い
花衣とうとうと捲り歩めれば 三角みづ紀35(花の座)
孕める馬に朝の光背 水野 桂36(三角直し)
元句:朝寝の跡が川と流れる
●C班「歌仙『藁の王』の巻」
【C班解題】
これは僕(阿部)自身が参加したもの。
A班B班より人数が少ないのは、
第一回演習欠席者で座がつくられたため。
1234、2143(以下同)・・の回し順。
半玉の句の前後、季節の決めが狂った瑕疵はあるが、
蟻の季節を春と阿部が錯覚したためだ。
14から22の運びが目覚しい。
これは進行の遅れていたC班のため授業一回を割き、
その場で阿部の指導のもと各句がつくられた幸運による。
歌仙終結部、33-36(挙句)の流れは
直しのゆえもあるが、こちらもすごく良いとおもう。
直しでは「私句」が多出する煩さを嫌った。
それとゲスト参加の石井君は
曖昧句が個性なのかもしれない。
しまひまでそぞろ往く日も藁の王 阿部嘉昭1
遥かに見ゆる曲がり路の秋 伊藤浩介2
黄金にはなれぬと落つる金木犀 石井洋平3
舞を踊りて服に染み付く 内堀亮人4
元句:舞を踊りて路に染み付く
一筋の呻きおもはす周波数 伊藤浩介(阿部直し)5
元句:一筋の呻きに似たる周波数
ラジオ修理も夏の月下に 阿部嘉昭6(月の座)
目が覚めて周囲見渡す一匹の蝉 内堀亮人7
蟻に食まれむ末はわが身よ 石井洋平8
半玉の請け先に梅らんまんと 阿部嘉昭9
そよかに流る沈丁花の香 伊藤浩介(阿部直し)10
元句:そよかに流る冬の残り香
手荷物の息を潜めし風鈴の 石井洋平11
涼しき懸想に我が身を削る 内堀亮人(阿部直し)12
元句:夏の懸想に我が身を削る
月恋し曇天をゆく鐘の哀 伊藤浩介13(月の座)
見えなくなりぬ肥馬の背中も 阿部嘉昭(阿部直し)14
元句:見えなくなりぬ馬車の背中も
種をまき芽吹く陽気に走り寄り 石井洋平15
キャベツに似たる脳の数々 伊藤浩介16
たつぷりと花も重たき頭山 内堀亮人17(花の座)
寄席の帰りを茶漬けで流す 石井洋平18
粥腹に力を込めて西瓜剪る 阿部嘉昭19
研がんとすれば砥石に黴よ 内堀亮人20
五月雨の露滴りし原始の蒼 伊藤浩介21
田中の線の縦を横に見 阿部嘉昭22
空と地をひつくり返さん手をついて 石井洋平23
天に張り付く我は蜘蛛なり 伊藤浩介24
汝が髪は憤らずとも愛衝つく 内堀亮人(阿部直し)25
元句:我が髪は怒らずとも天を衝つく
抜けども抜けぬロックの色素 石井洋平26
まぼろしは紺屋と囲む藍の鍋 阿部嘉昭27
煙と消えて腹満ち足りず 内堀亮人(阿部直し)28
元句:煙と消えてわが腹満ちず
かすみ目を底まで撃てり冴ゆる月 伊藤浩介(阿部直し)29(月の座)
元句:かすみ目に朧を纏う月麗し
すすき野にある馬糞が都 阿部嘉昭(阿部直し)30
元句:をちこちにある馬糞が都
薄羽の蜻蛉のひかり衣装とぶ 石井洋平(阿部直し)31
元句:薄羽の透ける光の衣装とび
夜の寒さに足ばたつかす 伊藤浩介32
明け方や筍を見る土湿り 内堀亮人(阿部直し)33
元句:喧噪も無ければひとり夜さみし
吟行小ぶりに春空ひくし 石井洋平(阿部直し)34
元句:目覚めの行軍ひとには小さき
菰を茣蓙にしのぎて酌まん花のもと 阿部嘉昭35(花の座)
琴瑟そろひ歌ごゑ潤む 内堀亮人(阿部直し)36
元句:酒に色付く頬と紅梅
●同じカテゴリー「コラボレーション」: リンク一覧
- 三歌仙・興行報告
- 連詩「親指止まって、指紋失う」の巻
- 連詩『買えない思想』の巻
- 五つの動詞で私を語る
- 『小池昌代』詩集について(立教大文学部文芸思想専修一年生)
- 魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』論集(立教大文学部文芸思想専修一年生)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎構成的な私(提出課題シャッフルの試み)(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎「実は私は」メール(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎私の20の光景(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎問と答(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎幸福の小さな断片(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 私たちはこんな日常やこんな感情でできています:◎マイ・ベストテン(立教05年度前期提出課題傑作選)
- 椎名林檎『加爾基 精液 栗ノ花』をめぐって Part 4
- 椎名林檎『加爾基 精液 栗ノ花』をめぐって Part 3
- 椎名林檎『加爾基 精液 栗ノ花』をめぐって Part 2
- 椎名林檎『加爾基 精液 栗ノ花』をめぐって Part 1
- 『アカルイミライ』論成立に向けての 原弘一君と阿部嘉昭のメール交換 (原弘一)
- 「私の好きなもの」(立教配布プリント:2001/6/18)
- トップへ戻る
