▼コラボレーション

連詩「親指止まって、指紋失う」の巻

連詩「親指止まって、指紋失う」の巻







【解題】
さきにアップした【連詩『買えない思想』の巻】のほか、08年後期の立教・連詩連句演習にはもうひとつB班もあって、こちらも同様に36篇の連詩を巻いた。運びの原理もA班とおなじ。
A班と較べ、より鮮明さに欠ける感触がややある。個々人の詩行(フレーズ)にさらに自己検証性の欠如が目立ち、「付け」の着眼にも「斬新なユーモア」や「転覆の悪戯」といった要素が弱くなるためだ。こちらはもっと差し戻しが必要だったかもしれない。
まあ参加した僕の力量は一定だろうが、特記したいのは松岡美希さんの前半詩篇の鮮やかさと、特別参加した歌手・三村京子さんの後半詩篇の目覚しさ。全体には破壊を目指す心根がA班と同じながら、個性の偏差分布がより激しくなって、結果的に運びにジグザグが出て、妙味の薄くなった弱点のあるのが惜しい。
それでも連詩という営みのおもしろさは伝わってくるとおもう。たとえば授業中にまったく覇気のない内堀亮人くんが僕の詩篇に意外な運動神経で付けたりしてくれたのを僕自身喜んだりもした。三角みづ紀さんの友人・石井洋平くんも頑張って「祝言詩篇」を完成させようとしたし。
綜合タイトルは僕の独断で、春木晶子さんと松岡美希さんのそれぞれ最初の詩篇から、【連詩『親指止まって、指紋失う』の巻】としました。
(阿部)






立教08年度後期「連詩連句演習」B班
【連詩『親指止まって、指紋失う』の巻】

春木晶子/松岡美希/佐々木綾/輿水英里/三村京子/
井澤丈敏/阿部嘉昭/内堀亮人/石井洋平

自:08年09月
至:08年11月





1【午前零時の空模様】
春木晶子


屋根の上の猫の影が月を喰らう夜は
冷めたカフェオレがやけに不味い

曇天の画面は来訪を告げない
いつまでたっても いつまでたっても

エネルギー不足ではないのですが
ボタンひとつで明転すれど
やっぱり独りきりなのです

震えたのは待ち望んだ来訪のせいじゃない
数打てば当たるかもね、ダイレクトに
押し付けお断り 出会いもいりません

気を紛らわそうと 独り言の更新
その間に来てくれるといいな
呟く言葉もなく親指が止まる

不味いとわかっていてもう一度啜る
夜がこんなに長いのなら眠ってしまえばよかった
でも寝ている時に貴方が来たらと思うと
目が冴えてしまうのです

貴方が私を忘れて
眠ってしまっただけなのだといいな
いつの間にか猫の影が吐き出した月は真ん丸






2【パターン1の場合】
松岡美希


タイミングをずらすと
弛緩すらも
とれなくなって
しばらくは
指紋も失った

おとといと昨日が
あまりにも
近接低空
飛行の朝に
ぶくぶくと
うきあがる
夜の黒胆汁

眉を汚される
コーヒーのあさに
フォークが清潔に見える人の
からくりを
解くドリルが
虚数回路に逃げ込むのを
見咎めつつ






3【定理証明のための仮定法】
佐々木綾

                
余りと言うにはあんまりな
隙間を縫って入り込むそうです わずかに
覗いた数字は3から7から11へ 安定しない
カップの底の残った甘さを火にかけて140度
こえないようにかたむけて
アイなんてわかんなかったら無視です
それよかナイフがない
理由のほうがきっと近道に
繋がります
急がば回れ
油が売り切れるまでに 後
どれだけ残ってますか?

解答用紙の余白を増やす方法は
どうにかして
三段論法を成立させようと蹂躙
されたとうの昔から
忘れていない 消費された
時間に比例するように
ゆっくりと三原色が乾かす視線
でさえ






4【白昼夢】
輿水英里


息詰まったら
息抜きに
一服してはいかが
気ままにイギー・ポップ
聴きながら 奇数
逝きながら kill you
してみたくて 失敗
スプーンで掬い上げるだけ
貴方の白と
私の黒とを
かき混ぜて かき混ぜて
砂糖を三杯
銜えて 飲み干す
食後の一杯

事後 眩暈

聴こえてくるのは
In Between Dreams
イン ベッド ウィズ ドリームス
死んだ背中
視線逸らした






5【移動】
三村京子


死と人生との
タッチアンドターン
友川さんなら砂糖を、配る速度です。

問題は、XTCのションベン臭さ
無理みたいな残り時間
二回目に当たった。
以後は奇数月のみの参加でいきます

遠近両用の死角で
裸で死んでる少女
存在が提示するのは恥だけでしょうか

笑う帽子が27000円だった。
これからは洒脱な人生だろう。
脱臼は白いですか

鯉がすれ違う流れのなかで
手が光りながら行き交うようなハイファイヴ
そんなふうになりたい
死んだこともある人たちって、案外、多い
そうでなくても星と星が交換されてる
だから吾らにあるのは
移動のみ






6【欠片】
井澤丈敏


急ぎすぎて
体が崩れてきました
友川さんの砂糖も
螺旋状にからころと散らばって
それでも彼はずっと
欠片を拾い続けるのでしょうか

途切れがちな思考さえ
続けるのが困難になってきて
手と足がばらばらに
動き出しそうです

いまあなたはそこにいます

うそがほしいのかな
それは不味いと思う
私だって落下する

いまわたしはここにいます

むつかしいことば
なんてわからないし
追いつけないスピードに
追いつく気もないがたまには
死んでみるのもいいかもしれない






7【水が朝にしゃがんで、】
阿部嘉昭


かけら、けらけら
自分を階段に下げる
ただ もぐりゆくねずみとなって
地下のみどりを
眼やからだに這わせる

もてあました尻尾が
異議のようにポップ
無量の きるまいせるふで
舌も朝へとはがれてゆき、

会った。
調味料のきらめく通路で。
たがいの眉に塩を盛っては
こわれる固定を交換した
ぼくたちの顔の浮く
街のようなものにも
刻々と色が這って
四つ足が不足になる
その偽の動物誌もかなしい

西口に義体哭く。
水がしゃがんでいる






8【限界】
内堀亮人


冷たくて
国境線が
不可視になるような場所
子供達を
待ちわびて
グルタミン酸と
イノシン酸のような夜
けれども
もう賞味期限が過ぎてしまいました

今は
雇用問題
環境破壊
よりも
夢の島か
家の庭か

人生を愉しむ秘訣は
甘いか酸っぱいか
ではなく
逆境が快楽か、
鞭がアメか






9【抵抗】
石井洋平


誰にも姿を見られなくなった少女は人知れず赤靴下を脱ぎました
腐ってしまったような気がしたふとももの肉は
ほろほろしていてあるいは食べ頃なのかも知れません
ねぇ

いつでも遠くを眺め続けた少年は人知れず義眼を外しました
時折聞こえていた隣国の炸裂するような音は
からころと笑う声を持ってしてもまだ足りない
ねぇ

生まれてから
これまで一度も聞かれたことが
なかったから
あたし、お母さんがいること知らなかった
ぼくだって、父親になることを忘れていた
誰も聞いてはこなかったもの
ねぇ
妙齢の方に生まれた日を尋ねちゃいけませんよ
ねぇ
ねぇ
そろそろ前、見ませんか

危ない






10【このページは見つかりませんでした】
春木晶子


父という呼び名も
母という呼び名も
僕の固体識別番号ではない
だからどこか
絵空事


子供の存在など知覚しなかった

だけど固有名詞だって
だれかと同じなこともあるでしょう
それが
自分で決めたものではなく
組み込まれた
暗号だから

握り締めた赤は
僕の存在の輪郭を示さない
それは君のものだから

窓の外行き
あんなに焦がれたはずなのに

ぽろぽろと零れ落ちたもとの
固体情報が検索にヒットしない






11【保存】
松岡美希


剥がれ落ちた
薄膜とは
もう
決別をしてあるが
透過性は
まだ
選択式で

受け皿的な手触り
にしては
出て行ったものは
もう入ってこられない

同一に出会っても
また
ダブりが
増えていくので
まず
口角を削ってゆく
角質をそぎ落とす
明日は
おがくず






12【しょうひ】
佐々木綾


接がした後からくもりひろがり
ほろほろと飛来しては
総体の中紛れてしまう
辿ったところで違いなど
あり過ぎて返って さっぱり

隠したくて詰んだのか
詰みたくて接いだのか
おがくず食みだすまで
判りません

削られ残った口は
皿の中身をぺろりほおばり
靴底と床すりつける
音たてて過ぎていく

表面が隆起する
動きに合わせて ゆっくり

皿の中身が減らないので
そろそろ不安な消費期限
貼りかえられた表示は
皿の中身へ注がれた






13【発酵】
輿水英里


私 また間に合わない
私 また間に合わない

汚した皿の上
深夜2時に
腐りきった
引籠もり共が
蒼白で這いずり回って

打ち揚げられた鮪の
手が
まるで
生き物か

まるで
尻に接着剤塗ったか

くぁwせdrftgyふじこlp;
詰んでなんかない
詰んでなんかない

朝に食べる納豆ご飯だって
腐ってから






14【まな板の蛙】
三村京子


まな板の蛙、
遅れてしまった。
残ったのは、食べ散らかすこと。

汚れた両手で、
彗星の瞼を撫ぜ
痴情の夜をくり返す。

穴は
生き物としてあり、
抜けることすら、地上の痣を踏む。

接着するわたしの、子供、子供、子供
連なる卵も
眠りだせば

警報として時限はあり
濡れた路面が
つゆくさを笑んでいる

接着するわたしの、ひかり、ひかり、ひかり
もう胎児が若葉を
喃語めいてちらつかせる
ここに仰向けて
眠りだせば






15【孵化】
井澤丈敏


孵りそうですよ、
暖かい日射しを浴びたから。
手を当ててみれば
わかりますよ、
ね。
胎児は母親の声を聞いて
黙々と躍り続けています
彼は夢でも見ているのでしょうか
とても
恐ろしい顔をしています。
自分が自分ではないことが
わかりすぎて
怖いのでしょうか
お母さんに食われるのが
楽しみなのでしょうか
自力で殻を破って
出てくる前に
ぱりんと
割ってあげないと
大変なことになりますよ






16【秋が落ちない】
阿部嘉昭


遠い風に眼が胎んで
夢の、海の坂
蜃気楼がみえた

わたし以外を抱くため腕を伸ばすけど
このわたしは散らかせない
こどもの町の飴玉にも
気球が浮いて
ずっと秋が落ちないでいる

ぱりぱり割れる前のそこ、天国
色水がおいしい場所
針山にもゆかず
玻璃だけをずっと踏んで
あゆみもおたまじゃくしのように
自分の影だけは掻く
そうして対幻想になったかな
おとなにならずに

きみがまぶしい眼差しなのは
ぼくが炎えているから?
空にものぼる坂が一杯だ
晩からは漁火もゆれて 魚津






17【履歴】
内堀亮人


真っ黒の紙に
真っ黒な文字
これが僕の履歴書です

そこではきっと
昨日の僕は
海の底から
追い出されて
食べられたのだ

そうして今日は
生まれ変わったので
今のところは
朝日をみるのが
億劫なのです

このようにして
何回生き返れば
もう飽きたよ、と
言い出すのでしょうか。

生まれながらにして
性楽説を唱え続ける
ただひたすらに






18【影を作る会社】
石井洋平


遅ればせながら参上しました
朝食は野菜スティックでしたが、きゅうりの青臭さったら
ないよ
ほうっておいたら
茶っこくなってどん黒くなって腐りおってん

食うなや

若者の貪欲さにはいつもながら驚かされますな
油性マーカで書き込みすぎて読めたもんじゃあありませんな
それに臭い、まっことふかいのにおいですな
それではこいはもう用無しという事でしょうか
ええ、こいはもう即刻、廃棄すると言う事で
異議なし       異議なし         
   異議なし   異議なし    異議なし

満場一致で

おい

食うなや

いやいや素晴らしい

何べんでも吐き散らかしてそれでもまだ飲み込み続けるとは
いつもながら驚かされますな
おやま、あなた、ふかいのようで






19【白昼】
春木晶子


カオスに飛び込みながら
一寸先は白。
何もないともいいますが
あるいはそれも何かなのかもしれません。

喉が渇いて仕方ないのですが
どうやらここには食物しかないようで
気の利かないことですね。

いえいえ、別に異論はございませんよ空腹は
未だ感じますけれど
優先順位としては
やはり潤いの方が高いので

だから、
食用の任務を全うしないでの廃棄は
やはり礼を失すると思いますし

先ほどから注文が多い?
それは
人間だからですよ

幸か不幸か

怒らずに聞いてくださいますか?
トマトは水分に含まれますよ。






20【単複同型】
松岡美希


別段の用意もない
ただ
あるもので
育ってきた
にもかかわらず
いつの間に
みずを持つ

(最近は持ち物に ジュースがおおいなあ)

食って止まない
口唇は
もう特別に
正論を
敷いているよう
話す速さは
はじめから
手と組んでいて

意外に単独は
与えられて
なにかと与する
いつの間に






21【コミュニケーション】
佐々木綾


液体が六割と固体が四割
黄金比には少し遠いけど
それでもこれがベストだそうで
一時間に100mlと1,2品目がノルマ
ただし科学は含まれません
あ、ダブりも駄目ですよ?

正論に覆われた
その言葉を摂取する
私の耳
いい加減飽きたようで
そろそろ刺激がほしい
いっそ冷や水でいい

手と喉が手を組んでいることなんて
わかりきってた筈
集中砲火を喰らう目と耳
反論を張るのが間に合わない

みそっかすの足は
組む相手も見つからないし
崩れたところで文句もなし
スタンドプレイもたまにはいい





22【響く】
輿水英里


朝まで生テレビを遠目に
逃げ出した私の
耳を坊主が塞いで
ひたすらに歩かせる
躰の奥底に警鐘
この血は緑色なんだ
こんなとき
足は音を頼りに
何処までも行ける

痛い
痛い
いっつも頭が痛いんだよ
どうやら
宇宙人にチップ埋め込まれたな
ありとあらゆる毒を以ってしても
麻痺させてあげられない
過敏な躰

下らない議論はもうやめて
平和を願おうよ
私の為に






23【放課後】
三村京子


おはよう
これが終わったらみんなどこへ行くの
ぼくはこの池のそばにいるよ

教室は色紙
大雨で流される

ぼくらは頭痛になやみ
くだらないギロンになやみ
でも足は何処までも行くんだから
洪水にまけちゃだめだろう

ここで何か交換するのかな?
彼女の痛みを和らげられるかな?

耳を澄ましてる
そこへ流れるのが切断された記号の粒
メロディという鉛ならば

孤り孤りに返される
贈ったはずの葉も水も
それではあんまり寂しく帰るだけ

ぼくの歌なら消えてゆくが
水紋おちる、この池に
少しの声が潤んだら





24【壁をたたく】
井澤丈敏


極彩色の
音の粒が
滝となって
流れ落ちていく

波に飲まれた
ぼくのうたは
釘だけで止められた
時間
剥がれる

ぽかりと開いた穴が
塞がらないから
今日もまた
壁をたたく

隣人と寂しさを
交換しながら
朝の来る日も
来ない日も
世界が
風に乾くまで
ぼくらは
壁をたたく






25【空のよろめき】
阿部嘉昭


ぼくらはすすむ
樹のうろを自在にとおり
一樹を虹にするまで
虫の複眼へしずかに降りて
屍を天のしずくにするまで

「橋の向うに老い先がある」
そういうものを杖でつつく
地虫が焔のように湧いて
悪縁が一斉の朝となる
渡らせすぎている橋、
その湿地回復のかたわらで
あらゆる先行も閃光と感じた

おとといが誕生日、だね
つごう三十の輪っかで
「悲哀は微笑する」を
もう金色に隠せるようにもなって
血流、あるときのある空は
飛行機雲にまったく切られてゆく
(そんなふうに君に先んじていた、

万朶のよろめき、空に。






26【1+1は2にならない】
内堀亮人


直線を引いてみる
出来るだけ真っ直ぐの線
これによって
この世界を分けてみる
そうして左目と左耳
右目と右耳
別々のものとなっていく

こうやって出来たもの
足してみる
けれどもどうやっても
元には戻らない
1+1は2にならない

ある人は言う
円が書けなくなったら
もうきっと
絵は書けないという
けれども僕は
生まれながらにして
ただの直線しか
書けない






27【つくばエクスプレスで幾星霜】
石井洋平


図案を提出
何度も提出
先生はまだ出さなきゃ駄目

よりどりみどりのいろどりをまえに
おうむのけいしきをまねるどれいたちの
ねいろは曲線をひたむきにただす彼らのように綺麗
彼らの綺麗をしることができるのは
無機質ながらすの管とゴムチューブの
ような生まれながら声をいうものを持ち合わせていない
お前たちのように
濁れども濁れども
透明なままでありつづける性質のどれい

論文を発表
バッシングの嵐
先生はまだ続けなきゃ駄目

空と人間を等価に
研究対象としてしまったことの
罪の意識におびえる
おびえることすらわすれてしまったせんせい
ぼくらのせんせい






28【シナプス回路は環状線】
春木晶子


どれどれ見せてごらんよ
この濁った水の中には
いったい幾つの罰が眠っているのか
証明せよ

証明のためには
二項定理がふさわしいだろうか
さいんこさいんたんじぇんと
なぜグラフが上下対称に
弧線を描くのか理解できません

この導線を
幾つの夢が駆けめぐったか
おまえは何に震えているのか
夢魔苛みし
学童の
頭の中は常に公定式を否定している

理屈では説明できません
有効な式を導き出せません、だって
そもそもしきってなんですか

論理的な回答にて応答せよ
白紙回答は無効です






29【ほとり】
松岡美希


目前の行動式に
代入する気安さを
ベクトルで
つつく

いけの味
と間違える
水面
底のほうで
吊るす目に
たまったにごり
振動で
砂丘が沸いた
渇く
肌の色は
合戦の模様しだいで
潤むことも
あって、
温泉

冬の池






30【汲水】
佐々木綾


池の水を
呑み干したところで
わからない 溶けたもの 
濁ったんじゃなくて
最初から
色がこんなだったんじゃ
だって濾紙にのこらない

ふっとうしたら気化して乾いちゃいますよ
ゆうてんをこえれば液体ができるから大丈夫ですよ

うるおいを
止めたくてゼラチンをまぜた
(寒天は冷たいから却下)

つるべおとしをくりかえせど
波うたずゆれる表面
かわけばのこるだろうか
結晶
ではない
澱り、色つけたものだ
夏になればきっと

沼になれ






31【飽き足らずに呑み耽る友人を尻目に】
輿水英里


飽き足らずに呑み耽る
友人を尻目に
温いベッドを所望している
ゼラチンみたく
でろんでろんな脳みそで
一日の終わり

濁った空気を吸い込んで
浄化してから吐き出す
肺はタールと絶望で真っ黒けなのだ
きっと
人間ドックを受けたら
みんな病気かみんな健康だ
みんないかれてるか私がいかれてるか だ

悲劇的なことに
私もあなたも
音楽や小説やアートや漫画やらと
恋人になれるわけがなくて
せいぜい友達止まり
ロックに生きるかポップに生きるか
いつも選択を迫られている






32【11月】
三村京子


きらきらしながら
団地の窓辺で
秋の日が暮れるのをみている
熱いゼラチン液を注ぐ
片手鍋
せかいが固まるかもしれない
瞬間というもの

それは、あなたの前で
停まってしまった
小卓に向かいあう
にんげん
小菊も溶けている
何も知らない両足で走って
帰り道、まっ黒に沈んだ夜にいかれた

音の河に包まれて
私があるように
あなたをみつけた

拾い上げた楠葉を揉む
星を摘み取るしぐさで
おしくらまんじゅう






33【茎】
井澤丈敏


ちぎれる音
ぎょっとして
振り返ると
色のない
茎が
揺れていた
向かいあう
わたしたちの
重力を
かき消すためか
いつまでも
光合成を
続けるためか
しあわせそうに走る
あなたの横で
わたしは
口笛を拭きながら
ちぎれた
茎のあとを
追った






34【実と実】
阿部嘉昭


もういちど星期がくるよ
万年のむこうかもしれないが
光によって合成される澱粉には
宮殿の脂粉にもました
華やぎすら入り混じって
ギリシャではイルカを追う百人の少年に
その樹々は揺れながら変わるよ

梨の実の 糖分と水分
はにかみがそのはざまにあった
古人は実を掌上にかたむけては
陽が照ったり翳ったりする
なにごとかでただ白い畑に
いっときを思案しつくした
たぶんおもいでのようなものを
いまや空芯になった
蒼いひとみでも汲もうとして

林檎の実のなかなら
偏西風に押され白鳥が翔んでいる
人の口先にはそうして
吸えないものを吸う永遠もある






35【種と】
内堀亮人


収穫祭が近づいて
この果物の様な球体の上では
陽が当たる方向からいいにおいがしてくる
だからなのであろう、他を引き連れて
柿は平等を唱えつつ
一部を腐らせながらも
梢から離れようと
自転し続ける

周りと同じ、と嘆く時計よ
これが無常迅速なのさ

そうして種として生まれた僕たちの頭の上で
まるで新しい銀河であるかのように
つむじが反時計回りに回っている

転回してしまったこの柿は
きっと自らぶら下がっている命綱を
その諦観によってねじ切り
恍惚と落ちてしまう
こうして下に広がる果物が腐った後には
逆回りの新しい芽が土に生えるだろう
そこからもいいにおいがしてきた






36【ここより】
石井洋平


おめでとう
といった数だけ実る世界が
木々にたわわ
おじいさんの年輪は
それを満足そうに染み渡らせる

森はおじいさんから始まった
ありがとう
といって森に産まれた子供たちが
口先を伸ばし
実った赤い果実が
太陽になりたい

家族が増えました
いくつあってももっとほしくなる
丘の森の家族が

でんぐり返しではしゃぐ子供
どこまでもゆく
おめでとう
といって産まれ続ける世界で
眩いばかりの
太陽












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